弁護士による相続・遺産分割の法律相談 | 弁護士 佐野太一朗

不動産の取得協議

自宅から離れた田舎の空家、使うことのない田畑。相続しても困ってしまいます。実際に、実家の親が住んでいた家屋を相続したが、引き継いで住む子がいないというケースが増えています。

いらない・使わない不動産を相続した場合には、相続放棄以外に、不動産を換価して相続人間で分配する換価分割も有効です。換価分割について、手続きの流れに沿って、押さえておくべきポイントを説明してまいります。

1.換価分割とは?

被相続人の遺産の中で、不動産が大きな割合を占めており、かつその不動産の相続を希望する相続人がいない、という場合には相続不動産を売却・換金してその現金を分割するいわゆる「換価分割」をすることになります。

この方法が他の方法(現物分割、代償分割)と大きく異なるのは、相続手続→売却手続という2ステップを踏むことです。特に、売却手続のプロセスで、譲渡所得が生じる可能性があるため、その対応策を事前に検討しておく必要があります。

2.換価分割の進め方

換価分割は、相続→売却という2ステップをまとめて行う手続きのため、相続登記や課税関係において、かなり複雑な対応が必要になります。ここでは手続きに関する基本的な事項を説明しますが、実際の対応に当たっては、詳しい専門家への相談が必須になるでしょう。

2-1.手続きの流れ

換価分割のために不動産を売却するには、その前提として遺産分割協議にて、全相続人がその分割方法に同意するとともに、その旨を遺産分割協議書に明記しておく必要があります。そのような遺産分割協議書の記載方法等については、後述します。

相続開始から相続不動産の売却までの流れは、以下のとおりです。

この流れの中で、最も重要なプロセスは「⑥不動産会社に査定・売却依頼」です。

出来るだけ高い価格で売却するためには、複数の不動産会社に相談してみることです。まずは相続不動産の地元にある不動産会社との相談や、不動産の査定サイトを利用するなどして、相続した不動産の相場価格などの情報収集から着手します。

2-2.現状把握の重要性

相続人等を確定するためには、被相続人からスタートする親族関係について、戸籍調査を中心に進めます。

相続財産の確定については、被相続人名義の預貯金、有価証券、不動産等を出来る限りリストアップして、遺産分割協議の対象となる遺産の範囲を確定していきます。

遺産分割協議のあとに新たな遺産が見つかり、その評価額が全体の遺産分割の公平性に影響を及ぼすようだと、改めて遺産分割協議を行うことになり、手続きが煩瑣になります。

今回のテーマである不動産については、その現状把握について特に慎重に行う必要があります。最新の登記簿を入手して、そこに記載された所有者名義、所有権や所有権以外の権利関係(抵当権、地上権、地役権等)を把握します。その不動産に設定されている権利によっては、売却の難易度に大きく関係します。

さらに、登記簿には記載されていない権利関係が存在する可能性もあります。被相続人が生前に土地を賃貸契約している場合もあります。土地の賃貸契約は通常は登記簿に載せないため、登記簿だけでは把握できません。そこで、その土地の現況調査(目視確認)、賃貸契約書の有無の確認や内容調査等をあわせて行う必要があります。

2-3.遺産分割協議書の書き方

換価分割を行うための遺産分割協議書の要点を説明いたします。先に換価分割は、「相続→売却」の2ステップをまとめて行うものと説明しました。そのため、遺産分割協議書にもその2ステップの内容を記載しておく必要があります。

これは、1つは法務局での相続登記手続きを円滑に進めるため、2つは税務署に対して、「換価分割である」ことを明らかにしておくためです。

換価分割においては、書類作成等の手続きを簡素化するため、一旦、代表相続人1人に不動産を相続させて、その代表相続人が不動産会社と売買手続きを進めるという形をとります。そして、不動産を売却したあとは、その売却代金を代表相続人が受け取って、その後に他の相続人あてに相続分に応じた現金を送金します。

しかし、このときに、代表相続人から他の相続人に送金したお金については、見かけ上は「贈与」であり、贈与税の課税対象となりかねません。 そこでこのような疑義を持たれないように、遺産分割協議書に「換価分割」であることを明記しておく必要があるわけです。

共同相続人のうちの1人の名義で相続登記したことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません。

以上の留意点を踏まえた遺産分割協議書の記載例は、以下のとおりです。

遺産分割協議書

一.相続人●●太郎は、次の相続財産を相続する。 不動産の表示 省略

二.相続人●●太郎は、前項の不動産を速やかに売却・換価するものとし、売却代金から、売却に関する一切の費用及び、売却が完了するまでに要する管理費用等を控除した残額を、全相続人の間で相続分割合に従って分割、取得する。

 

2-4.売却の手続き

遺産分割協議書が作成され、法務局にて代表相続人への相続登記が完了したら、次のステップは換価分割における最も重要な手続き、「不動産の売却」に進みます。

上記で説明した手続きの流れでは、「⑥不動産会社に査定・売却依頼」から着手します。

不動産の売却といっても、2つの形態が考えられます。1つは不動産会社が自ら買い取る自社買い、2つは不動産会社が買い手を探してくる仲介です。

自社買いでは、不動産会社がその不動産を自社の販売商品として仕入れることです。その不動産に保有するだけの商品価値があると認められれば自社買いもありますが、ケースとしては少ないでしょう。一般的には、仲介により不動産会社に買い手を探してもらうことになります。不動産会社とは、まずは媒介契約を締結することになります。

買い手の支払能力のチェックなども含め、支払完了まで手続きが円滑に進むかは、不動産会社の力量にかかっています。買い手が購入資金の調達のためにローンを利用する際には、不動産会社がローンを相手に紹介することもあります。事前の検討や調査等が済み問題ないと判断したら、不動産会社の仲介により売買契約を締結し、不動産の引渡しと売買代金の授受を行ってまいります。

2-5.売却収入の分割

相続不動産の売買手続きが完了すると、代表相続人の銀行口座に売買代金が振り込まれてきます。あとは、その代金を遺産分割協議にて合意した分割割合に応じて、各相続人に送金します。

各相続人への送金金額は、次のとおり計算します。

相続人への送金金額={売却収入-売却費用(仲介手数料、登記費用、譲渡所得税等)-管理費用等(修理費、清掃草刈費、光熱水費等)}×分割割合(例:1/3等)

なお、代表相続人は、上記の計算式に沿って計算書を作成し、収入と支出に関する証憑の写しを添付して、各相続人に送付する必要があります。というのは、不動産売却代金は、一旦は代表相続人の口座に入金されますが、それはあくまで換価分割の1ステップであり、最終的には各相続人が自らの譲渡所得として確定申告する必要があるので、その証拠書類として重要だからです。このような手続きについても、申告手続までをにらんで、税の専門家に早めに相談しておくことをおすすめします。

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