相続財産の調査
家族や親族が亡くなると相続が始まります。しかし、相続といっても様々な手続きがあり、期限の短い手続きもあります。
慌ててトラブルにならないよう、一連の手続きをおさえておきましょう。
この記事では、家族や親族が亡くなってからやるべきことについて、役所などの公的手続きと、遺産分割などの相続手続きを時系列順に紹介します。
「被相続人の死亡から7日以内」「3カ月以内」「10カ月以内」と、目安の期限も記載しているので、これから必要な相続手続きが気になる方は、ぜひこの機会に整理しましょう。
1.相続手続き全体の流れ
家族や親族が亡くなったとき、まず何をして、その後の公的手続きや相続はどのように進めていけばいいのでしょうか。
まずは慌てずに全体の流れを見てみましょう。
このように、相続では色々な種類の手続きがあり、それぞれに期限が決まっています。
期限の短いものから順に、一連の手続きをおさえておきましょう。
2.被相続人死亡に関する手続き|時系列順
役所に書類を提出するなどの公的手続きについて、期限の短いものからご説明します。
なお、様々な手続きの必要書類や手続き場所について、以下のページで検索することもできます。
死亡届の提出
[手続の目安:亡くなってから7日以内]
被相続人が亡くなって最初に行う手続きが「死亡届」の提出です(戸籍法86条1項)。
これを済ませないと、火葬許可証や埋葬許可証を発行してもらえず、葬儀ができません。
まずは、医師から死亡診断書を受け取りましょう。3~5千円程度で発行してもらえます。死亡届が一体の用紙になっていますので、必要事項を記入し、押印します。
事故や事件による死亡のときは死亡検案書というものが発行されます。
【サンプル】死亡診断書・死亡届(法務省)
死亡届は、7日以内に、市区町村役所(被相続人の死亡地、本籍地、届出人の所在地のいずれかの役所)に提出します。
なお、死亡診断書はこの後の葬儀の手続きでも提示を求められることがあるため、何枚かコピーを取っておきましょう。もしもの時は、病院で再発行してもらうことも可能です。
死亡届と一緒に火葬許可申請書を提出することで、「死体埋火葬許可証」が交付されます。これがあれば、葬儀社で火葬の申込みができます。
この許可証は火葬後に葬儀社の印が押され、埋葬許可証として使います。
保険や年金・公共料金の手続き
[手続の目安:亡くなってから14日以内]
死亡届の他にも、以下のような公的な手続きが必要です。
- 世帯主の変更
- 健康保険の手続き
- 年金の手続き
- 介護保険の手続き
- 公共料金などの手続き
所得税の準確定申告
[手続の目安:亡くなってから4カ月以内]
「所得税の準確定申告」という手続きがあります(所得税法124条、125条)。
被相続人が確定申告が必要な年に亡くなった場合に、相続人が代わりに確定申告するものです。必要になるケースは、被相続人が自営業をしていたり、不動産賃貸の収入があるときなどが代表的です。
準確定申告は、相続人全員が、4ヶ月以内にしなければなりません。
相続税の申告
[手続の目安:亡くなってから10ヶ月以内]
10カ月以内に、相続税の申告と納付をしなければなりません(相続税法27条1項)。
これを怠ったり、期限を過ぎてしまうと、延滞税や加算税など、通常より多くの税金を収めなければいけなくなってしまいます。
忘れずに申告・納付するようにしましょう。
3.財産の相続/遺産分割に関する手続き
先ほどまでは、役所への提出や申告など、必ず期限内にやらなければならない公的手続きについて見てきました。
ここからは、遺産分割などの具体的な相続手続きをご説明します。
遺言書の確認
[手続の目安:亡くなってから3カ月以内]
相続手続きは、遺言書があるか無いかで大きく2つに分かれます。これからどう進めればいいかをはっきりさせるためにも、まず遺言書がないか確認しましょう。
遺言書がある場合には、基本的には遺言書のとおりにこの後の遺産分割を進めていくことになります。
遺言があった場合の注意点
遺言書を勝手に開封してはダメ
遺言書が、公証役場で作成された「公正証書遺言」以外の場合には、家庭裁判所で開封し「検認」してもらう必要があります。
遺言書を見つけると、中身が気になって確認したい気持ちは分かりますが、絶対に開封せず、検認を経るようにしてください。
相続人の確認
[手続の目安:亡くなってから3カ月以内]
相続の前提として、誰が相続人になるかをハッキリさせる必要があります。
この後の遺産分割協議や相続税の申告などにも関わりますので、遺言書探しと一緒に、できるだけ早く行いましょう。
基本的には、法定相続人といって法律で決められた人が相続人になります。
ただ、隠し子がいる場合や後から発覚するケースなどもありますので、戸籍を取り寄せて調査するようにしましょう。
相続財産の確認
[手続の目安:亡くなってから3カ月以内]
被相続人がどのような財産を残したかを確認します。相続にはプラスの財産だけでなく負債も含まれますので注意しましょう。
ここで確認した財産債務をもとに、今後の遺産分割協議や相続税の申告計算が行われますので、漏れなく把握しなければなりません。
この調査も意外と時間がかかりますので、葬儀などが終わったら調べ始めましょう。
相続したくないときはどうすればいい?
被相続人の財産を相続するということは、財産の他に借金などの負債も引き継ぐことになりますが、必ず相続しなければいけないわけではありません。
相続人は次の3つから相続方法を選択することができます。
- 単純承認
本来の相続の形で、全ての財産債務を相続する方法です。相続人から特に申し出がなかった場合には、この方法によるものとみなされます。特に必要な手続きはありません。 - 相続放棄
全ての財産債務を相続しない方法で、家庭裁判所への一定の手続きが必要です。 - 限定承認
財産と負債を相殺し、負債が残るようであればその部分は相続しない方法です。財産が残った場合にはその残った部分も相続します。家庭裁判所への一定の手続きが必要です。
相続放棄や限定承認
[手続の目安:亡くなってから3カ月以内]
相続放棄と限定承認には明確な期限があり、3ヶ月以内に一定の手続きをしなければならないと法律で定められています。単に口頭や書面で関係者に伝えただけでは放棄することができず、家庭裁判所での手続きが必要です。
遺留分侵害額請求
[手続の目安:亡くなってから1年以内]
たとえば、遺言で「全財産を長男/太郎に相続させる」などと残されていた場合、妻や長女、次男などは何も遺産をもらえなくなってしまいます。
しかし、それでは相続人同士であまりに不公平になってしまいますし、生活が立ち行かなくなってしまうこともあります。
このように、本来の相続人が何も貰えないということを防ぐための制度が「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分が侵害されている場合、「遺留分侵害額請求」をすることで、遺留分を取り戻すことができます。期限は原則として1年以内です。
遺産分割手続き
[手続の目安:亡くなってからできるだけ早く]
遺産分割って何?
相続人と相続財産がはっきりしたら、いよいよ「遺産分割」を行います。
遺産分割とは、読んで字のごとく相続人で相続財産を分けることで、協議、調停、審判という3つの種類があります。
遺言があれば遺言通りに、なければ相続人の話し合いによって分割するのが基本です。
遺産分割協議
通常、遺言書がなかった場合に遺産を誰がどのように相続するかを話し合って決めますが、この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書というものを作成し、実際に遺産をそれぞれの相続人に分配します。
この協議書で、不動産の相続登記や銀行などの名義変更、口座解約などの手続きを行います。一般的には、協議書がないと登記所や銀行は手続きに応じてくれません。
ちなみに、分割協議で話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所での遺産分割調停、それでもダメなら遺産分割審判と進んでいきます。
遺産分割協議は、ご家庭の状況によって進捗が大きく変わるため、目安は「できるだけ早く」としています。協議がまとまらない/もめてしまった場合、数年かかることも珍しくありません。
ただ、最終的に相続税の申告が必要になるため、10カ月以内に完了することが望ましいです。少しでもトラブルになったら、迷わず速やかに弁護士に相談すべきです。
4.忘れがちな相続手続き|登記や名義変更など
相続税申告・納付
先にもお伝えしましたが、10ヶ月以内に相続税の申告と納付をしなければいけません。遺言の確認や遺産分割などを協議している内に忘れられがちなので、注意が必要です。
相続登記
不動産の名義変更は、相続登記をすることにより登記上の持ち主の情報が変更されます。
登記は義務ではありませんが、第三者に対して「この土地は○○(名義人)のものだ」ということを、公に主張することができます。
また、不動産登記をきちんと行っていないと、その後に代々発生する相続において処理が複雑になってしまう恐れがあります。
相続登記については期限はありませんが、遺産分割が終わり不動産を相続する人が決まったら、早めに行うのが良いでしょう。
各種の名義変更
土地や家などの不動産は相続登記で名義変更されますが、その他にも自動車や銀行口座などの名義変更手続きがあります。
相続登記や名義変更については下記ページをご覧ください。
その他の手続き
ここまで見てきた手続きの他にも、生命保険などの各種保険金の請求、遺族年金の申請、場合によっては高額医療費の支給申請などもあります。必要に応じて手続きしましょう。