成年後見制度
被相続人の方が認知症、高齢や障がいによって判断が衰えてきた場合の相続対策として、成年後見制度を利用して適切なサポートをしてもらうことが考えられます。
また、認知症、高齢や障がいによって判断が衰えてきた人が相続人の中にいる状況で遺産分割協議をしようとする際にも、成年後見制度を利用すべき場合があります。
ここでは、この成年後見を実際に申立てする際の手続きの流れや費用について解説します。
なお、成年後見の読み方は、せいねんこうけん、成年被後見人の読み方は、せいねんひこうけいにん、成年後見人の読み方は、せいねんこうけいにんとなります。
1 成年後見制度
まず、成年後見制度について確認したいと思います。
認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。
また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
なお、成年被後見人は、制限行為能力者の一種で、制限行為能力者には他にも種類があります。
・未成年者…20歳未満の人
・成年被後見人…判断能力が常に全くない人
・被保佐人…判断能力が著しく不十分な人
・被補助人…判断能力が不十分な人
また、成年後見制度には大きく以下の2つに分けることができます。
(1)法定後見
法定後見とは、家庭裁判所の決定により成年後見人を選任する制度です。配偶者や相続人が家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てることで手続が開始されます。
(2)任意後見
任意後見は、今後認知症の発症が不安な方が、元気なうちに自分で後見人を選任しておき、実際に判断能力の低下・喪失となった場合に、家庭裁判所に申し立てることで手続が開始されます。
以下では、特に法定後見について、選任方法、業務、流れや費用をみていきます。
2 選任方法
成年後見人の選任については、任意後見人は任意で選択することができますが、法定後見人は家庭裁判所が適格者を選任します。
したがって、法定後見の場合は希望した者が必ず後見人になれるわけではありません。なお、制度上、以下のような者は不適格とされています。
(1)法定後見制度の場合
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
・行方の知れない者
(2)任意後見制度の場合
・未成年者
・家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
・破産者
・行方の知れない者
・本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
・不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
3 類型と業務内容
法定成年後見制度に類似した制度に、保佐人、補助人という制度があります。対象者の判断能力によってそれぞれ権限が異なります。
成年後見人は対象者の判断能力が著しくて生かした場合に選任されますので、権限の範囲は最も広くなります。
基本的に、成年後見人は、成年被後見人の行う取引行為全般について取消権・代理権がありますが、場合によっては成年後見監督人を選任しなければならない場合もあります。
成年後見人の主な職務について簡単に紹介します。
(1)本人の診療・療養介護・福祉サービスなどの利用契約の締結
本人の財産や収入を把握した上で、医療費や税金などの支払管理を行います。必要があれば、本人の介護サービス利用契約や診療、老人ホーム施設への入退所契約といった契約を代理して行います。
(2)本人の預貯金や不動産などの財産管理
成年後見人は成年被後見人の財産(預貯金、不動産、生命保険など)を把握し、これを管理する権利・義務があります。
具体的には、成年被後見人の財産について目録を作成し、その財産処理の内容を裁判所に定期的に報告するなどが仕事です。
4 法定成年後見手続の流れ
法定成年後見を利用するには、以下のような流れになります。
概ね、一連の流れを2ヶ月程度で行いますが、本人の状態によってはもっと長くかかる場合があります。
(1)家庭裁判所への成年後見申立て
まず、家庭裁判所に対して後見開始の審判の申し立てを行います。
この際の管轄裁判所は、認知症や痴呆である本人の住所地の家庭裁判所となります。
申し立ては本人のほか、配偶者、四親等以内の親族、検察官などが申立人となれます。
その際に以下のような書類の提出が必要となります。
ただし、裁判所によって細部が異なる場合もあるので、詳細はご自身が該当する家庭裁判所にお問い合わせください。
①申立書類
申立書、申立事情説明書、本人の財産目録や収支状況報告書とその資料、後見人等候補者事情説明書、親族の同意書がこれにあたります。
すべて家庭裁判所で取得することができます。
たとえば、東京には「東京家庭裁判所後見センター」があり、申立書類等をダウンロードできます。
また、申立ての際には、書類を提出するだけではなく、面接日を予約します。
予約した面接日の3日前まで(土日祝日は休みなのでご注意ください)には書類を提出していなくてはなりません。
・戸籍謄本・住民票
本人のものと、後見人候補者のものそれぞれ1通が必要となります。
ただし、戸籍謄本は、本人と後見人候補者が同一戸籍の場合には、2人あわせて1通で足ります。
同様に、住民票も、双方が同一世帯に住んでいる場合は、1通で構いません。
・本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書
法務局に申請して取得できます。各地の法務局の窓口で申請する他、東京法務局では郵送での申請にも対応しています。
※「本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書」は、成年被後見人本人か、本人の四親等内の親族及びそれらの方から委任を受けた代理人等、請求できる人が限られていますので、ご注意ください。
・診断書
主治医などに予め作成してもらう必要があります。
②費用
名目 | 金額 |
---|---|
申立手数料(印紙代) | 800円 |
郵送切手代 | 後見の場合は3,200円 (保佐・補助の場合は4,100円) |
登記手数料(印紙代) | 2,600円 |
戸籍謄本の交付手数料 | 1通につき450円 |
附票(住民票)の交付手数料 | 1通につき300円 |
診断書作成手数料 | 1万円程度(医療機関によって異なる) |
「本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書」の交付手数料 | 300円 |
(2)家庭裁判所による事情聴取
事実調査や確認のために、本人、申立人、成年後見人候補者として記載した人を家庭裁判所に呼んで調査官から細かな事情を聴かれます。
本人がどうしても家庭裁判所に行けないやむをえない事情がある場合には、入院先等に家庭裁判所の担当者が向かいます。
なお、この際に必要と認められる場合は本人の精神鑑定が行われる場合もあります。
成年後見は本人の精神状態や判断能力を慎重に確認する必要があるため、全体のおよそ1割程度は鑑定が必要となるのです。
鑑定にかかる費用はおよそ5~10万円程度です。 通常、精神鑑定を行う医師は本人の主治医なので、申立ての前に、鑑定を引き受けてもらえるか主治医に確認しておくのがよいでしょう。
(3)審判
家庭裁判所の判断により成年後見人が選任されます。
審判に不服がある場合は、審判書受領後2週間以内に不服申立て(即時抗告)を行うことができます。
基本的には成年後見人候補者の中から後見人が選任されますが、家庭裁判所の判断でこれら以外の弁護士などを選任することもあります。
なお、不服申立てを行った場合でも、必ずしも自身の希望通りの人が後見人になるとは限りませんので、ご注意ください。
(4)成年後見の登記
家庭裁判所から審判書謄本を受け取ります。
成年後見の申し立てが認められるとその旨が法務局で登記されて手続きは完了します。
こちらで登記を行う必要はありません。ただし、登記事項証明書を交付してもらうには、550円がかかります。
成年後見人は年に1度の頻度で財産目録と収支状況を家庭裁判所へ報告します。その際、報酬を請求することが可能です。
(5)成年後見業務が終了した場合
被後見人が死亡するなどして業務が終了した場合、申立てを行った裁判所へ業務終了報告書を財産目録とともに提出し、本人の財産の引渡しを行い終了です。その後は、各相続財産に合わせて相続手続きを行います。
5 成年後見制度を開始するのにかかる費用・期間
一般的には、成年後見制度を開始するのに必要な期間は約2ヶ月程度となります。 また、費用については、事務手続きで必要な金額が以下のとおりです。
名目 | 金額 |
---|---|
申立手数料(印紙代) | 800円 |
郵送切手代 | 後見の場合は3,200円 (保佐・補助の場合は4,100円) |
登記手数料(印紙代) | 2,600円 |
戸籍謄本の交付手数料 | 1通につき450円 |
附票(住民票)の交付手数料 | 1通につき300円 |
診断書作成手数料 | 1万円程度(医療機関によって異なる) |
「本人の成年後見などに関する登記がされていないことの証明書」の交付手数料 | 300円 |
加えて、鑑定を要する場合は別途、鑑定費用が5~10万円かかります。
そして、確実に手続きを進めるためには、主治医等ともよく話し合いながら、弁護士に相談するべきといえます。その際、弁護士に依頼すると別途、報酬がかかります。
なお、ほんとどの自治体で、成年後見利用支援事業による助成金制度を用意しています。 経済的に費用を負担することが困難な方に対して、審判の申立てにかかる費用を援助したり、弁護士などが後見人になった場合に、後見人に支払わなければならない報酬を助成してくれる制度です。
6 最後に
一見、手続き自体は簡単そうに見えるかもしれませんが、実際の成年後見の申し立て手続きは非常に煩雑化しています。
必要書類についても、個別の事情に応じて、様々な資料の提供を要求されるので、初めて手続きをする人にとっては大変です。
なかなか先が見えず、そのため今後の予定が立てられないなどの支障も出てきます。 オリエンタル事務所では、成年被後見人に関するご相談・ご依頼だけでなく、申立てをする場合のご相談やご依頼も承っております。