暴行
1、暴行とは?
そもそも刑事上処罰対象となる「暴行」とはどのような意味なのでしょうか?
①暴行の定義
暴行とは、「人に対する不法な有形力の行使」と考えられています。
有形力の典型的なものは「殴る」「蹴る」などの暴力ですが、水や塩を振りかけたり髪の毛を切ったりすることも暴行に含まれます。
暴行の例
- 相手を殴った、蹴った、髪の毛を引っ張った
- 相手の髪の毛を切断した
- 相手の胸ぐらをつかんだ
- 相手に大声で怒鳴りつけた
- 相手に塩や水を振りかけた
また、暴行罪の被害者は「自分以外の人」であり、親族も含まれます。
そこで、DV(家庭内暴力)などで妻に暴力を振るったケースでも暴行罪が成立する可能性があります。
②相手にけががなくても「暴行」になりえる
暴行を振るっても、胸ぐらをつかんだくらいでは相手は「けが」をしないことが多いです。ですが、相手がけがをしなくても「暴行」は処罰対象となります。
相手を大声で怒鳴りつけたり胸ぐらをつかんで揺すったり髪の毛を引っ張ったりして相手が無傷であっても、暴行罪で逮捕される可能性があります。
2、暴行容疑で問われる罪や罰則
他人に対して暴行を振るったら、発生した結果に応じて以下のような犯罪が成立します。
①暴行罪
暴行罪は、不法な有形力の行使としての「暴行」を行ったときに成立する犯罪であり、相手が「負傷していない」ことが前提です。
刑罰は2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金または勾留若しくは科料です(刑法208条)。
勾留(こうりゅう)とは、1日以上30日未満の身柄拘束の刑罰です。懲役刑とは違い、強制労働はありません。禁錮刑や懲役刑の期間は30日以上なので、勾留の方が軽い刑罰です。
科料(かりょう)は1000円以上1万円未満の金銭支払いの刑罰です。1万円以上になると、罰金刑となります。
②傷害罪
暴行により、相手をけがさせてしまった場合には「傷害罪」が成立します。傷害罪は、人の生理的機能を害したときに成立する犯罪です。
傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑です(刑法204条)。
③暴行罪と傷害罪の違い
暴行罪と傷害罪は、よく混同されるので違いを把握しておきましょう。
暴行罪は、相手に対して暴行を振るったときに成立しますが、相手がけがをしていないことが前提です。けがをさせてしまった場合には傷害罪が成立します。
つまり、相手に暴行を加えたとき、相手が無傷であれば暴行罪が成立し、相手がけがをした場合には傷害罪が成立すると理解しましょう。暴行罪の方が軽い罪で、傷害罪の方が重い罪になります。
このように、傷害罪は暴行罪の結果(けがが発生したこと)によって罪が加重される「結果的加重犯」となります。
④相手を死亡させた場合には、傷害致死罪や殺人罪になることも
暴行によって相手を死亡させてしまった場合には、より重い罪が成立します。
まず、相手を殺す気がなく、不運にも相手が死亡してしまったというケースでは「傷害致死罪」が成立します。この場合の刑罰は、3年以上の有期懲役刑です(刑法205条)。
もともと相手を殺してやろうと思っていた場合や「死んでもかまわない」と思っていて、暴行行為と死亡結果との間に因果関係も認められる場合、つまり、殺意があった場合には、殺人罪が成立します。この場合の刑罰は、無期懲役刑または5年以上の有期懲役刑となり、非常に重くなります。
詳しくは、こちらの「殺人・殺人未遂」のページをご覧ください。
このように、暴行を振るった場合でも、発生した結果によっては非常に重い罪が成立して「一生刑務所暮らし」という結果にもなりかねないので、そのようなことのないよう十分注意してください。
3、暴行で前科を付けないためには
暴行を振るうと、暴行罪や傷害罪が成立して裁判になり、前科がついてしまう可能性があります。暴行で前科をつけないためには、以下のような対応をとりましょう。
①すぐに弁護士に相談する
まずは、すぐに弁護士に相談することが有効です。
弁護士に相談すれば、状況に応じた適切なアドバイスを受けられて、もっとも望ましい行動をとることができるからです。
たとえば被害者との示談交渉を開始したり自首を検討したりすることができます。
また、実際に逮捕されてしまっていたら、弁護士を刑事弁護人として選任し、具体的な防御活動を開始してもらうべきです。身柄拘束を受けている被疑者が自分一人でできることは限られているので、不利益を避けるためには専門の刑事弁護人によるサポートが必要です。
②一刻も早く示談をする
暴行罪や傷害罪などの被害者のいる刑事事件では、一刻も早く被害者との示談交渉を開始することが重要です。示談が成立すると、被疑者や被告人への情状が良くなり、刑事処分を軽くしてもらえるからです。
逮捕前に示談すれば、被害届を出されないので逮捕もされません。
また逮捕された場合、前科をつけないためには、起訴前に示談してしまうことが有効です。示談が成立して被害届を取り下げてもらい、嘆願書まで提出してもらえたら、多くのケースで不起訴処分にしてもらえるからです。
しかし示談交渉には時間がかかります。「被害者に連絡を入れてその日に示談成立」というわけにはいきません。
逮捕後処分決定までには23日程度しかないので、早めに示談交渉に着手することが重要です。
③弁護士と一緒に自首することも有効
他人に暴行を加えてしまったら、逮捕される前に自首するのも有効です。
自首とは、犯罪が捜査機関に発覚する前に、犯人が自ら出頭して罪を申告することです。
自首した場合、刑罰を任意的に減軽してもらえますし、情状が良くなるので不起訴にしてもらえる可能性も高まります。
ただし、自首が成立するのは「犯罪が発覚する前」に限られます。
すでに暴行の被害届を提出されて捜査が開始されていたら、警察に出頭しても自首減軽は受けられません。自首をするならば、早めに決断されるのが良いでしょう。
自首しようかどうか迷われたときには、弁護士がご相談を伺いますので、お気軽にお問い合わせください。
4、暴行の示談金の相場
他人に暴行を加えてしまったとき、示談金はどのくらいの金額になるのでしょうか? 暴行の場合の示談金額は、発生した結果によって大きく金額が異なります。
相手がけがをせずに済んだ場合には非常に安い金額で示談できることもありますが、相手が大けがをしたら高額になります。
また相手がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったり仕事を辞めてしまったりした場合にも示談金が高額になる可能性がありますし、加害者の社会的地位や収入が高いケースでも示談金は高くなりがちです。
具体的なケースにおいて、いくらの示談金が相当か知りたい場合には、弁護士にご相談ください。
5、暴行で前科をつけたくなければ弁護士へ
暴行を振るって逮捕された場合、暴行罪、傷害罪、傷害致死罪、場合に寄っては殺人罪など、どのような犯罪が成立するかによって適用される刑罰が大きく異なります。
相手が大けがをしていれば、懲役刑で実刑判決が出る可能性も高くなります。
また暴行罪となって罰金刑で済んだとしても、一生消えない前科がついてしまいます。
不起訴処分を獲得し、前科をつけないようにするには、弁護士に対応を依頼する必要性が高くなります。
逮捕されたらもはや一刻の猶予もありません。今すぐにでも、オリエンタル法律事務所の弁護士までご相談ください。