合同会社は,少人数の社員で構成され社員同士が個人的な信頼関係で結ばれていることを前提としている組織です。
そのため,合同会社設立後,状況が大きく変化し社員間の信頼関係が崩れた場合等においては,社員は退社することにより,出資した金銭の払い戻しを受けて投下資本の回収を図ることになります。
退社の方法は大きく分けて「任意退社」と「法定退社」の2つがあります。
他方,合同会社では会社の財産が流出することになる社員の退社に関しては規制があります。有限責任社員しかいない合同会社では債権者保護が必要だからです。
合同会社の存続期間を定款で定めなかった場合は,結果的に,社員の退社が長期間制限されることとなります。また,ある社員がいて,その社員の終身の間は合同会社が存続することを定款で定めた場合も,その社員の退社は長期間制限されることとなります。しかし,それではいつ退社できるのかがわからないため,社員になろうとする人がいないでしょう。社員は持分の譲渡も自由にすることはできないわけですから。
そのため上記の場合(存続期間を定款で定めなかった場合等)は,各社員は定款に別段の定めがある場合を除き,6か月前までに合同会社に退社の予告をしていれば,特別の理由がなくても事業年度の終了のときにおいて退社をすることができることとなっています(会社法606条1項)。
また,やむを得ない事由があるようなときは,いつでも退社することができる(会社法606条3項)ことになっていますが,ここでいう「やむを得ない事由」とは「社員が単に当初の意思を変更したというだけでは足りず,定款規定を定めた時や入社・設立時に前提としていた状況等が著しく変更され,もはや当初の合意どおりに社員を続けることができなくなった場合等がこれに当たるものと解すべきである」(立案担当者による新・会社法の解説(別冊商事法務295)/相澤哲(編著)/商事法務162ページ)となっています。
ただし,任意退社については定款で別段の定めをすることができる(会社法606条2項)ので,下記のように記載して緩和することもできます。なお,定款に記載する場合は,「社員及び出資」の章の中に記載するとよいでしょう。
(社員の任意退社)第○○条
社員は,事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては,当該社員は,3か月前までに当会社に退社の予告をしなければならない。
2 前項の規定にかかわらず,社員は,やむを得ない事由があるときは,いつでも退社することができる。
反対に,任意退社について強化することもできますが,法の立案担当者は次のように解説しています。「定款において,入社後一定期間は任意退社をすることができないこととする旨を定めることの有効性も問題となるが,そもそも,たとえば会社の存続期間を10年間と定めれば,社員は,前記のやむを得ない事由が生じた場合以外には,自己の意思で退社することは認められないのであるから,会社の存続期間を定めなかった場合であっても,同様の効果を有する定款規定を定めることは可能であるものと考えられる」(立案担当者による新・会社法の解説(別冊商事法務295)/相澤哲(編著)/商事法務162ページ)
法定退社とは,会社法607条による次の8つの事由により退社することです。
上記の任意退社の他に,法律の定める一定の事由(下記①~⑧)が生じた場合に社員は退社することになります。
①定款で定めた事由が発生すること
②社員の退社について総社員の同意があること
③社員が死亡すること
④合同会社(LLC)の社員である法人が合併により消滅すること
⑤社員に破産手続き開始の決定がなされたこと
⑥合同会社(LLC)の社員である法人が上記④⑤以外の事由によって解散したこと
⑦社員が後見開始の審判を受けたこと
⑧社員が除名されたこと
ただし,その社員が⑤⑥⑦に掲げる事由の全部または一部によっては,退社しない旨を定めることができるようになっています(会社法607条2項)。
合同会社においては社員(出資者)の死亡・合併による消滅は法定退社事由(上記③④)のとおりとなります。
そのため,原則として社員が死亡しても当該社員の持分が相続人に承継される訳ではなく,退社を原因とした持分の払戻請求権を承継するにすぎません(この点,株式会社の場合には,株主が死亡すれば株式は相続人に承継されます)。
とすると,仮に合同会社の経営者である社員が死亡してしまった場合,後継者への事業の承継がスムーズに行えず不都合が生じる可能性もあります。
そこで,このような不都合を回避したい場合,以下のような規定を定款に定めるのが一般的です。
(相続および合併の場合の特則)第○○条
社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては,当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する。
このように定款に定めれば,合同会社において社員が死亡・合併した場合でもスムーズに事業の承継を行うことができます。
任意退社や法定退社によって社員が退社した場合には,合同会社は,当該社員が退社したときに,当該社員に関わる定款の定めを廃止する定款の変更をしたものとみなされます(会社法610条)。
退社した社員は,相続人その他の一般承継人が社員となる場合を除き,持分の払い戻しを受けることができます(会社法611条1項)。なお,退社した社員の持分は,社員がした出資の種類を問わず,金銭で払い戻すことができます(会社法611条3項)。例えば,車による現物出資があった場合でも,現金で払い戻すことができます。
合同会社は,持分の払い戻しのために資本金の額を減少することができます(会社法626条1項)。資本金の額を減少する場合には,下記の通り,債権者保護の手続きが必要です(会社法627条1項2項)。また,剰余金額を超える持分の払い戻しにも,債権者保護の手続きが必要となっています。
合同会社が社員の退社により資本金の額を減少する場合には,当該合同会社の債権者は,当該合同会社に対し,資本金の額の減少について異議を述べることができます(会社法627条1項)。
この場合,合同会社は,当該資本金の額の減少の内容及び債権者が1か月を下らない一定の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告し,かつ,知れている債権者には,各別にこれを催告しなければなりません。
そして,債権者がこの期間内に異議を述べなかったときは,当該債権者は,当該資本金の額の減少について承認をしたものとみなされますが,債権者がこの期間内に異議を述べたときは,合同会社は,当該債権者に対し,弁済し,若しくは相当の担保を提供し,又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(会社法627条4項,5項)。
資本金の額の減少は,これらの債権者の異議手続が終了した日に,その効力を生じます(会社法627条6項)。したがって,債権者の異議手続をとって,その終了を待って,退社する社員に対する持分の払戻しをすることになります。
資本金の額の減少の効力発生日から2週間以内に,その本店の所在地において,資本金の額の減少による変更の登記を申請しなければなりません。
①退社する社員について,退社の旨及びその年月日
②減少後の資本金の額及びその年月日
なお,合同会社においては,業務執行社員以外の社員については,登記事項とされていないので,その退社による変更登記を申請することを要しません。
個人である社員が退社して持分の払い戻しを受けた場合は,みなし配当や譲渡所得といった課税関係が生じる場合があります。法人である社員についても同様に,課税関係が生じる場合があります。
合名会社,合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称します。)の社員は,死亡によって退社(会社法第607条第1項第3号)することとされていますが,その持分について払戻しを受ける場合には,どのように評価するか説明していきます。
また,出資持分の相続について定款に別段の定めがあり,その持分を承継する場合には,どのように評価するか説明します。
(1)持分の払戻しを受ける場合
持分の払戻しについては,「退社した社員と持分会社との間の計算は,退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法第611条第2項)とされています。
そのため,持分の払戻請求権として評価し,その価額は,評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に,持分を乗じて計算した金額となります。
(2)持分を承継する場合
出資持分を承継する場合には,出資として,取引相場のない株式の評価方法に準じて評価すべきであるため,取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価します。
合同会社の顧問先からはどのように退社の手続きを取れば良いかよくご相談を頂くことがあります。他方,退社を申し出ても返金が引き延ばされたり,返金されないといった相談も多数寄せられています。
オリエンタル事務所では,適用に事業を行っていらっしゃる合同会社からご依頼はもちろん,合同会社等の社員権スキームを悪用した事案にについて相談も受けます。合同会社の枠組みを悪用した法人に対して請求していきますので,一度ご相談いただけますと幸いです。
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