相続が起こったとき、資産がプラスになることだけではありません。被相続人が借金などの負債を残して亡くなった場合には、相続した人が借金を支払わなければなりません。
相続が開始した場合,相続人は次の3つのうちのいずれかを選択できます。
相続人が被相続人の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ
相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない
被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ
相続人が,②相続放棄または③限定承認をするには,家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
そこで今回は、②相続放棄の手続きのメリット・デメリット、手続きの方法や期限、費用、必要書類について解説します。
相続放棄は、資産・負債のいずれも相続による承継をすべて相続せず、放棄する制度です。
相続放棄の対象となるのは被相続人のすべての財産であり、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、負債などのマイナスの財産も含まれます。そのため、相続を放棄した場合、プラスの財産もマイナスの財産もいずれも相続人が承継することはありません。この相続放棄は、裁判所に必要な書類を提出することで認められます。
相続で受け継ぐのはプラスの資産だけとは限りません。被相続人に借金などのマイナスの資産があると、相続人その借金を支払わなければいけません。
もし、借金が多くて支払えなければ、最悪の場合には自己破産などをしなければならなくなってしまうこともあります。
また、明らかに負債が多い場合の他にも、相続問題に巻き込まれたくない場合もあります。
このような場合には、相続放棄をすることで相続によって、損害を被ることを回避することができ、または相続問題に巻き込まれることを回避できます。
相続放棄は借金を負わずに済む便利な制度ですが、もちろんデメリットもあります。
どのようなメリット・デメリットがあるのかを見てみましょう。
相続放棄する最大のメリットは、マイナスの遺産から解放されることです。
同じように、被相続人が連帯保証人になっていた場合も、保証人の地位から解放されます。
このように、相続放棄をすれば、例えば、被相続人に多額の借金があったとしても、残された相続人の方は、一切の借金を引き継がなく済みます。
また、遺産の取り分などについて親族で揉めそうなときなど、面倒な遺産分割協議などの相続手続きに参加する必要もありません。
最大のデメリットは、プラスの遺産も受け取れなくなることです。
財産の調査をきちんとせずに相続放棄手続きをしてしまった場合にあとからプラスの相続財産があることが判明しても相続することはできません。
残された遺品の中に、思いもよらず価値ある遺品があるかもしれないのです。
このように、相続放棄にはデメリットもあるので、本当に放棄して良いのかを慎重に検討する必要があります。
まず、相続放棄をすべきか否かの判断において、一番重要なことは遺産の調査です。借金などの負債がいくらあって、プラスの遺産がいくらあるのか、正確に調査します。
それぞれを評価した結果、最終的な相続財産のプラス・マイナスを確認します。
プラスが多ければ相続放棄をすることはもったいないですが、マイナスが多ければ相続放棄を検討するべきと考えます。
もっとも、遺産の種類・量が多かったり、借金の契約書などが見つからず、調査が難航することもよくあります。不動産や未上場株式など、専門家に査定してもらわなければ詳細な価値を把握できない遺産もあります。
そのため、相続財産の調査段階から弁護士に依頼することをおすすめします。
オリエンタル法律事務所では、不動産の査定、借金の債権者の確認、預貯金の調査なども一括して引き受けています。
相続放棄の期限は、3カ月です。
相続人は被相続人の相続開始を知ってから3ヶ月以内に、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを決めなければいけません。3ヶ月の期間内に相続放棄も限定承認もしなかった場合は、単純承認として相続をしたことになります。
具体的には、①被相続人が亡くなったことと、②自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内にしなければいけません。
この3ヶ月を過ぎると、原則として相続放棄はできなくなり、自動的に「単純承認」になります。借金があるときは借金も当然に相続し、その支払をしなければなりません。
不動産や株など金銭評価が必要なものの評価に時間がかかったり、どこで連帯保証人になっていないか分からないなど、相続財産の全体が掴めない場合もあります。
このように、相続財産の調査が難航し、相続開始から3ヶ月以内に相続するか否かを判断できない可能性がある場合にはどうしたらいいでしょうか。
その場合には、期限の延長申請をするべきです。
家庭裁判所に期限の延長を申請することで、3ヶ月の期限を延長する方法もあります。
もっとも、必ず延長が認められるわけではないですし、申請の手間もあるので、遺産内容の調査や相続放棄の判断はなるべく早めにしてしまった方が安心です。
具体的には、家庭裁判所に対して、熟慮期間内に相続財産の状況を調査しても相続放棄の要否について判断することができないことを理由に相続放棄期間の伸長を申し立て、家庭裁判所がこれを認めれば必要な期間、この熟慮期間が伸長されます。
この場合は、伸長された期間が経過するまで相続放棄をすることが可能です。
既に3ヶ月以上経ってしまったときでも、絶対に相続放棄ができないわけではありません。
相続放棄をしなかった理由が、「相続財産が全く存在しないと信じたため」で、このように信じたことに「相当な理由」があれば、3ヶ月を過ぎても相続放棄が認められる場合は裁判例においてもあります。
原則として、相続放棄の手続きが受理されてからの取り消しは認められません。
次のような例外的な場合には取り消しが認められますが、基本的には認められないので、相続放棄は慎重に行うことをおすすめします。
・未成年者が法定代理人の同意を得ないでしたとき
・成年被後見人がしたとき
・詐欺または強迫によってしたとき
・後見人または被後見人が後見監督人の同意を得ないでしたとき
・被保佐人が保佐人の同意を得ないでしたとき
相続放棄を自分でやる場合の一般的な方法を簡単にご説明します。
相続放棄で必要となる手続は「相続の放棄の申述」と呼ばれるものです。
申立先は、被相続人が亡くなったときの住所(住民登録していた住所)の家庭裁判所です。
地域で管轄が分かれているので、裁判所のホームページからご確認をお願いいたします。
相続放棄の申述を行う費用は、収入印紙代として申述人1人につき800円が必要です。
また、戸籍謄本を取る場合には1通450円の小為替が必要です。
家庭裁判所からの連絡用の切手として数百円が必要です。
どのようなケースでも必要な書類
・相続放棄申述書
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・相続放棄する本人の戸籍謄本
①申述人が配偶者の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
②申述人が子または孫の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
・被代襲者(配偶者または子)の死亡記載のある戸籍謄本
③申述人が被相続人の親または祖父母の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本
④申述人が兄弟姉妹または甥・姪の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・配偶者(または子)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本
・被相続人の親(父・母)の死亡記載のある戸籍謄本
・兄弟姉妹の死亡の記載のある戸籍謄本(死亡している場合)
なお、ご参考までに司法統計による相続放棄の却下率を記載します。
令和1年:0.24%
平成30年:0.24%
平成29年:0.24%
相続放棄すると、その分の遺産はどうなるのでしょうか。
また、放棄することで完全に相続に関わらなくなるのでしょうか。
相続放棄すると、はじめから相続人ではなかった扱いになります。
そのため、他の相続人がいれば、他の相続人だけで法定相続分や遺言に従って相続します。
また、他の相続人がいないか、相続人全員が相続放棄をした場合には、遺産の中で借金と財産を精算し、財産が残れば通常は国庫に帰属します。
通常この精算の手続きは、相続財産管理人という人が行います。
相続放棄した場合、相続放棄が認められた者は、はじめから相続人ではなかった扱いになります。
しかし、実際には、相続手続きにおいて行うべきことが完全にないわけではありません。
具体的には、他の相続人が放棄せず相続する場合にはその人が管理を始められるまで、または他の相続人がいないか相続人全員で相続放棄した場合には、相続財産管理人が選任されて管理を始められるまで財産管理をしなければなりません。
古い家や放置された山林など、評価の低い不動産がある場合にはこのようなケースが予想されます。
遺族年金については、相続財産ではないので、相続放棄しても受け取ることができます。
生命保険の保険金受取人に指定されていれば、相続放棄しても受け取ることができます。
ただし、保険金の受取人が被相続人本人になっている場合には、保険金は相続財産に含まれるため、相続放棄すると受け取ることができません。
原則として、相続放棄する前に遺産を使うなどした場合には単純承認となり、もう相続放棄はできなくなってしまうので十分注意してください。
①相続人が相続財産の全部、または一部を処分した場合
②相続人が相続財産の全部または一部を隠匿、消費した場合
なお、家庭裁判所から、法定単純承認事由があるとして相続放棄の申述が却下されたような場合、東京高等裁判所に対して2週間以内に「即時抗告」(不服申立て手続き)を行うことができます。
このように、相続放棄の申述が却下された場合、不服申立ての期間制限がありますので、速やかに弁護士に相談されるのがよいかと思います。
実務的な話ではありますが、通常必要な程度の葬儀費用に使った場合には単純承認とはならないという裁判例もあります。
借金がある場合でも、「過払い金返還請求権」が発生する場合などには、安易に相続放棄することはおすすめしません。
返済が長期に渡っている場合などは、返済状況などもしっかり調査した上で判断するべきです。
被相続人が税金や健康保険料などを滞納していたことが後から発覚することもあります。
一旦相続してしまえば、滞納税金などを支払わなければなりませんが、相続放棄することでこれらの支払い義務もなくなります。
相続人が未成年者または成年被後見人である場合には、その法定代理人が代理して申述することになります。
しかし、例えば、未成年者が相続を放棄すると、法定代理人の相続分が増えるような場合や、一人の未成年者が相続放棄すると、ほかの未成年者の相続分が増えるような場合には、当事者の利害が対立する利益相反と呼ばれる状況になってしまいます。
そのため、法定代理人が代理権を行使することができず、当該未成年者について特別代理人を選任する必要があります。
相続開始前に相続放棄はできません。
相続放棄は、相続開始後に家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで成立するものです。
そして、家庭裁判所は相続開始前の相続放棄を受け付けていません。そのため、相続人が相続開始前に相続を放棄するということはできません。
相続放棄を検討するときは、まずは遺産の内容をしっかり調査する必要があります。
また、悩んでいたり調査をしている内に熟慮期間を過ぎてしまったら、もはや相続放棄をすることができず、借金を相続することになってしまいます。
そこで、相続放棄を検討するときは弁護士の力を借りることをおすすめします。
相続放棄しようかと考えている方は、一度相続問題に注力しているオリエンタル法律事務所に相談いただければと思います。
名称 | オリエンタル法律事務所 | ||||
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弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
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