「突然、特定の相続人だけに有利な遺言書が出てきた」
「認知症だったはずなのに、公正証書遺言が残されていた」
「筆跡がどう見ても本人のものではない」
このような場合、遺言書の内容に納得がいかないからといって、当然に無効になるわけではありません。もっとも、遺言には法律上の厳格なルールがあり、遺言能力がなかった場合や方式に違反している場合などには、無効を主張できる可能性があります。民法は、遺言は法律に定める方式に従わなければならないとし、15歳以上に遺言能力を認めつつ、遺言時に能力を有していることを要求しています。
また、家庭裁判所の検認を受けたからといって、その遺言が有効だと確定するわけではありません。裁判所自身が、検認は遺言書の現状を明確にし、偽造・変造を防止するための手続であって、有効・無効を判断する手続ではないと案内しています。
この記事では、遺言無効を主張できる主なケース、弁護士に相談すべきタイミング、集めるべき証拠、手続の流れ、費用の考え方まで、相続事件の実務を踏まえて解説します。
結論|こんな場合は早めに弁護士へ相談すべきです
次のような事情がある場合は、遺言無効を検討する余地があります。
特に重要なのは、証拠は時間が経つほど失われやすいという点です。医療記録や介護記録は保存期間の問題があり、関係者の記憶も薄れていきます。そのため、遺言の無効を疑う場合は、できるだけ早く弁護士に相談して調査と証拠収集を始めることが重要です。
遺言書が無効になる主なケース
民法は、15歳に達した者は遺言できるとしたうえで、遺言者は遺言をする時においてその能力を有しなければならないと定めています。つまり問題になるのは、遺言書を書いた時点で、その内容や法的効果を理解できる状態にあったかどうかです。
認知症であれば自動的に無効になるわけではありません。反対に、公正証書遺言であれば必ず有効というわけでもありません。争点になるのは、あくまで作成時点の判断能力です。
たとえば、次のような事情があると、遺言能力が争点になりやすくなります。
民法は、遺言はこの法律に定める方式に従わなければすることができないと定めています。方式を欠く遺言は、内容がもっともらしく見えても無効になる可能性があります。
自筆証書遺言については、法務省も、民法968条に基づき、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印しなければならないこと、財産目録は自書でなくてもよいが各頁への署名押印が必要であること、変更には特別の方式が必要であることを案内しています。
そのため、次のような不備は典型的な争点です。
民法975条は、遺言は二人以上の者が同一の証書ですることができないと定めています。いわゆる共同遺言の禁止です。夫婦が1通の紙に連名で遺言しているようなケースは、実務上も無効が問題になります。
成年被後見人が遺言するには、民法973条により、事理を弁識する能力を一時回復した時であることに加え、医師2人以上の立会いなど厳格な要件が必要です。これを欠く場合、遺言の有効性が問題になります。
遺言書の筆跡が明らかに異なる、被相続人が普段使わない言い回しが並んでいる、作成経緯を特定の相続人だけが把握しているといったケースでは、本人が本当に作成したのかが争点になります。本人の手によるものではない遺言や、法律上の要件を満たさない遺言については、無効を主張し得ると解説されているとおりです。
公正証書遺言でも無効になることはあります
「公正証書遺言だから争えない」と思われがちですが、そうではありません。
たしかに、公正証書遺言は公証人が関与するため、自筆証書遺言より方式面の争いは起こりにくい傾向があります。しかし、作成時に遺言能力がなかった、本人の真意に基づかない、作成経緯に重大な問題があるといった場合には、無効が争点になり得ます。遺言能力の要否は遺言の種類を問わず民法上要求されており、公正証書遺言の安全性は高くても、絶対ではありません。
よくある誤解|検認をしたら有効、ではありません
ここは相談現場でも誤解が非常に多いポイントです。
家庭裁判所の検認は、相続人に遺言の存在と内容を知らせ、遺言書の現状を明確にして偽造・変造を防止するための手続です。有効・無効を決める手続ではありません。 したがって、検認済みの遺言であっても、後から無効を主張することはあり得ます。
なお、公正証書遺言のほか、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して保管された自筆証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所での検認が不要です。ただし、法務省は、この制度は遺言書の有効性を保証するものではないとも案内しています。
遺言無効を主張するなら、まず集めるべき証拠
遺言無効の事件は、感情論よりも証拠で決まります。特に遺言能力や偽造・代筆が争点になる場合、次の資料が重要です。
医療機関や介護事業者の記録は、作成時の認知機能や意思疎通の状態を示す重要資料です。遺言無効を疑う場合、こうした資料の取り寄せが実務上重要であり、時間が経つと収集が難しくなることがあります。
弁護士に相談する段階では、完璧に揃っていなくても構いません。
**「何があるか」「誰が事情を知っているか」**を整理して持参するだけでも、見立ての精度は大きく変わります。
遺言無効は、「怪しい」だけでは勝てません。どの無効原因を軸にするか、証拠が足りるか、遺留分のほうが現実的かを見極める必要があります。
前述のとおり、医療記録や介護記録は早く動くほど有利です。証拠の散逸を防ぐ意味でも、初動は重要です。
相続の揉めごとは感情的になりやすく、家族同士での交渉はこじれがちです。弁護士が窓口になることで、不必要な対立を抑えやすくなります。
遺言無効の証拠が弱い場合でも、遺留分侵害額請求など別の手段が有効なことがあります。遺言無効を争うべきか、遺留分で解決すべきかを同時に検討するのが実務的です。実際、遺言無効確認請求訴訟で根拠が乏しい場合や敗訴した場合には、遺言が有効であることを前提に遺留分を検討する流れが紹介されています。
まずは遺言書の内容、作成時期、被相続人の状態、財産の内容、関係者の陳述などを整理し、無効原因の有無を検討します。上位の相続実務サイトでも、遺言無効が疑われるケースでは事前調査を行うことが前提として打ち出されています。
証拠関係によっては、裁判前に話し合いで解決する余地があります。ただし、相手方が遺言の有効を前提に財産取得を急いでいる場合は、交渉だけで終わらないことも少なくありません。
遺言の有効性そのものに争いがある場合、最終的には訴訟での判断が必要になります。相続実務の解説でも、遺言無効確認請求訴訟の請求権者は法定相続人などの利害関係者であり、相続開始地などを基準に裁判所が決まると整理されています。
遺言が無効になっても、それで直ちに遺産の分け方が決まるわけではありません。遺言がなかった状態に戻るため、改めて遺産分割協議や、必要に応じて調停・審判へ進むのが一般的です。
遺言無効の弁護士費用は、一般に次の組み合わせで決まります。
費用体系は事務所ごとに異なりますが、現在の上位事務所ページでも、事前調査費用と遺言無効確認請求の費用を分けて案内している例があります。遺言無効事件は、訴訟前の調査の比重が高いため、単純な相続相談より費用設計に差が出やすい分野です。
相談時には、少なくとも次の3点を確認すると安心です。
単に内容が不公平というだけでは無効にはなりません。
争点は、あくまで能力・方式・真正性です。
証拠が弱いのに無効訴訟へ進むと、長期化しやすくなります。
「全部ひっくり返す」より、「最低限取り戻す」ほうが現実的なケースもあります。
放置すると、遺言に基づく名義変更や処分が進むおそれがあります。相続手続の進行や証拠散逸の観点からも、早めの相談が重要です。
いいえ。認知症という診断名だけで直ちに無効になるわけではありません。問題は、遺言作成時点に遺言能力があったかです。
はい。方式面の争いは起こりにくいですが、遺言能力や真意、作成経緯に問題があれば争点になります。
いいえ。検認は有効・無効を判断する手続ではありません。
できません。共同遺言は禁止されており、無効の問題が生じます。
争えます。法務局保管の遺言は検認不要ですが、有効性まで保証する制度ではありません。
遺言無効の問題は、相続人同士の感情だけで動くと、かえって不利になりやすい分野です。
重要なのは、遺言能力・方式・真正性という法的な争点を見極め、必要な証拠を早い段階で確保することです。民法上、遺言には能力と方式の要件があり、検認は有効性判断ではありません。さらに、法務局保管制度を使った遺言であっても、有効性そのものが保証されるわけではありません。
遺言書に疑問がある場合は、無効訴訟に進むべきか、遺留分請求が現実的かを含めて、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
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| 弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
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