近頃、資金調達の手段としての合同会社の社員権スキームのご相談を受けることが多いため、本日は、資金調達の手段としての合同会社の社員権スキームのメリットと注意点などについてご説明したいと思います。
合同会社とは、信頼関係を持った少人数の者が全員で出資し、共同で事業を営むことを想定した会社の形です。出資者全員が合同会社の有限責任社員となり、出資した額を限度として会社の債務について責任を負います。合同会社の有限責任社員となった場合、会社が倒産すると出資額分を全額失うことになります。
なお、合同会社が自社の資金調達のため、社員権を自ら募集することについては、金融商品取引業者としての登録は必要ありません。また、会社法では、出資額分の払戻しの請求は原則認められていません。
「社員」と聞くと、従業員のことを思い浮かべるかもしれませんが、その社員ではありません。
合同会社の社員権とは、株式会社でいう株券に似た権利であり、合同会社の有限責任社員たる地位のことを意味します。
「社員」というと会社で働く人のことかと勘違いしてしまいそうですが、会社法でいう「社員」と日常用語での「社員」とはまったく異なります。
会社法でいう「社員」は「従業員」ではありません。合同会社の「社員」は会社で言う「株主」に近いものであり、「社員権」は株式のようなものとイメージしてください。
多数の者から、資金調達をする場合には、原則として金融商品取引業の登録が必要です。例えば、会社の株式や社債などを多数人に対して売る場合です。
しかし、合同会社の社員権を、自ら販売する場合には、金融商品取引業の登録の必要がありません。そのため、資金調達の手段として、合同会社の社員権販売が行われているのです。
まず、上記のとおり、合同会社の社員権の募集行為をする場合には、金融商品取引業の登録が必要ありません。
株式や債券等、「有価証券」そのものでなくても、金融商品取引法上のみなし有価証券の私募については原則として金融商品取引業の登録が必要です。
しかし、金融商品取引業の登録については、数ある許認可の中でも、取得が非常に難しいです。近年では、大手の資本が入っているなどの事情がない限りは、スタートアップの企業が登録されるのは、実質的に不可能という状況です。
一方で、合同会社が自らの資金調達のため、社員権を自ら募集又は私募する行為は、金融商品取引業の登録を受けずに行うことができます(金融商品取引法2条8項7号参照)。
これが、「合同会社の社員権募集スキームが金融商品取引法の登録の例外」といわれるゆえんです。
なお、証券取引等監視委員会(SESC)から、合同会社の社員権スキームについて意見が出されています。
「現行制度では、特定の場合を除き、合同会社の従業員による当該合同会社の社員権の取得勧誘は金融商品取引業に該当しない」と明記されています。ただし、外部の代理店などを使って勧誘する場合には、金融商品取引業に該当し登録が必要です。
金融商品取引業の登録の登録なく、資金調達する方法として、少人数私募債での資金調達があります。
一方で、勧誘する人数が49名まで(購入できる人ではなく、声掛けできる人が49人以下)に限定されていることから、多数人を対象にした大規模な資金調達は難しいです。
一方、合同会社の社員権募集スキームの場合、勧誘する人数に制限はありません。
また、実際に投資する人数にも制限はありません。
ただし、投資家から集めた資金を株式やFX等の有価証券に投資する場合には内国有価証券投資事業の権利等に該当しますので、500名以上の募集に該当する行為を行う場合には、有価証券届出書の提出等の開示義務を負います。
したがって、499人までの出資者にしておくべきだと考えます。
そのため、勧誘ベースで49人までが私募となる株式や社債の自己募集と比べて、多人数の投資家に社員権を取得させることが可能です。
このように、大規模な資金調達が、金融商品取引業の登録がなく、できることは大きなメリットだと言えます。
一般に、投資家と匿名組合契約を行い、それをFXや株式に投資して利益が出た場合に配当するようなビジネスを行う場合、金融商品取引業の登録が必要です。
資金を集めてそれを集めた資金を自己運用する場合、投資運用業の規制対象外になっていることから、募集行為同様、金融商品取引業の登録は不要です。
したがって、形式上株式やFX等の金融商品に投資をするための合同会社の設立は可能です。
もっとも、投資家から集めた資金を株式やFX等の有価証券に投資する場合には内国有価証券投資事業の権利等に該当しますので、500名以上の募集に該当する行為を行う場合には、有価証券届出書の提出等の開示義務を負いますので注意が必要です。
また、不動産ファンドを行いたい方にもメリットがあります。一般に、不動産の実物不動産を対象とするファンドを組成する場合、不動産特定共同事業の許可を受ける必要があります。
しかし、会社法に基づいて合同会社に出資する場合の当該出資に関する契約は、一般的に不動産特定共同事業契約には該当しないと解されています。
そのため、合同会社は、不動産特定共同事業の許可を受けることなく、実物不動産を取得して、その売買・交換・賃貸借から生ずる利益を社員に分配することができます。
合同会社の社員権は、株式会社でいう「株式」にあたります。社員権を持つ人は、会社の株主と同じ立場で、会社の方針に口を出すことができるということになります。
会社としても、運営方針に口を出されるのは本意ではないしょうから、その場合には、社員権の議決権を制限することが必要になります。
しかし、完全無議決権にしてしまい、資金調達をすることは、国民生活センターから、「定款上、出資者の議決権を完全に排除する場合、集団的投資スキームに該当しうる」との見解が示されています。
金融庁は、社員権募集スキームは、「合同会社の実態がない場合には、集団投資スキームに該当する」との見解を明らかにしています。
このように、ただ、合同会社を作り、社員権を募集すればOKというわけではありませんので、スキーム作りには十分注意してください。
ここにて「投資者保護を徹底する観点から、合同会社の業務執行社員以外の者(従業員や使用人)による当該合同会社の社員権の取得勧誘について、金融商品取引業の登録が必要な範囲を拡大するなどの適切な措置を講ずる必要がある。」との指摘もあり、将来的には、法改正により、合同会社の業務執行社員以外の者による合同会社の社員権の取得勧誘金融商品取引業の登録が必要とされる可能性もあります。
今まで確認してきたとおり、合同会社社員権の自己募集スキームはかなり大きなメリットがあります。
しかし、合同会社社員権の自己募集スキームは言葉で説明すると簡単そうですが、実際には定款、募集要項をはじめとするスキーム設計に関して、かなりの時間をかけて法的、実務的に詳細な検討を行う必要があります。
例えば、合同会社の定款を例にとってみましょう。本スキームを実施するため、普通のひな形通りの定款で合同会社を単に設立しただけでは、合同会社の社員権募集スキームはかなりリスクの高いものになります。
このようなやり方をすると、設立時の社員だけでなく、一般出資者も社員になるため、議決権が発生してしまい、運営はかなり困難になります。
実際、自社でコンサルタントにすすめられるまま当該スキームで社員権販売を行い、運営が困難になってしまった会社様からもかなり前に相談を受けたことがあります。
しかし、詳細を見ると、スキームが違法状態になっており、結局運営は停止されることになりました。
このように、合同会社社員権の自己募集スキームはかなり難易度が高く、素人が安易に行うものではありません。当該スキームの実行にあたっては、金融商品取引法の専門家と相談しつつ、一緒にすすめていく必要があります。
合同会社の社員権スキームを使って、資金調達をする場合には、会社として以下に注意する必要があります。
社員が死亡した場合の取り扱いが、相続人が持分を承継するという文言を入れてしまうと、持分の評価方法が持分の払い戻しの際の計算ではなく、非上場株式の評価となってしまい、税額が高額になる可能性があるので、注意してください。
出資者の議決権を完全に排除する合同会社社員権の自己募集スキームであれば100%安全かといわれると、そうとも言い切れない面があります。
例えば、国民生活センターから、「定款上、出資者の議決権を完全に排除する場合、集団的投資スキームに該当しうる」との見解が示されています。
これは、議決権を100%排除した社員権募集スキームは通常の社員権募集ではなく、実質上は集団的投資スキームと変わらないから、金融商品取引業の登録は必要、という考え方です。
合同会社においては広く定款自治が認められている以上、議決権がない=社員権に該当しない可能性もありますが、このような見解にも配慮し、一定程度の社員の会社への参加権、議決権を確保するスキームを構築する必要があると考えられます。
さらに、そのほかにも平成30年には、金融庁は「合同会社の実態がない場合には、集団投資スキームに該当する」との見解を明らかにしています。
このように、合同会社の社員権募集スキームは100%安全なスキームとはいいがたい面はあるので、一般の会社の担当者レベルで集団投資スキームの代替として安易に一般投資家を勧誘すると、ほぼ100%違法なスキームや運営が困難になってしまうと思われます。そのため、一般投資家相手に合同会社の社員権を勧誘するスキームとしてどのように違法にならないようにするかは行政書士や弁護士等のファンド業務の専門家とともにかなり慎重に考える必要があります。
合同会社の社員権募集スキームは金融商品取引法だけでなく、平成29年12月1日より、改正特定商取引法が施行されており、特定商取引法にも注意が必要です。
従来、社員権は特定商取引法の対象外でした。
しかし、法施行に伴い、一定の社債その他の金銭債権や、一定の株式会社の株式、合同会社、合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものが新たに特定商取引法の規制対象となっています。
それに伴い、合同会社の社員権の訪問販売や電話勧誘等の形式での販売にあたっては、書面の交付、クーリングオフ等の特定商取引法に定める規制に従う必要があります。
これを守っていないと、刑事罰等になることもありますので、十分注意してください。
これまで確認してきたとおり、合同会社の社員権販売スキームは実際には見た目よりかなり難しいのが現実です。実際、小規模なファンドを組成するぐらいの手間と時間と高度な法的知識が必要となります。
そのため、一般的な会社が、専門家の関与もなく、自社役員と従業員のみでこのようなスキームを構築するのはほとんど無理であると思われます。
当事務所は、多数の企業様から問い合わせを頂いており、現在までに30社の企業様の合同会社の社員権スキームの支援を行い、現在も10社の運用サポートをしています。
様々な面から検討を加え、健全かつ合法的に運営が行えるよう全力でサポートいたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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