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動物(ペット)と暮らす上ので法律問題

都心部では,以前からペット・ブームと言われていますが,一般社団法人ペットフード協会の調査によれば,2022年(令和4年)時点で,20代から70代における全国の犬の飼育頭数は約705万頭,猫の飼育頭数は約884万匹と推計されているそうです。リンクはここを参照ください。

当事務所は基本的に企業法務がメインですが,当職が犬を飼うようになってから,ペットの飼い主さんからの相談が増え始めました。動物(ペット)をめぐる裁判も幾つか担当しています。

動物(ペット)が傷ついたり,最悪の場合,死亡してしまった事案などの裁判では,相手方側から,「ペットは物なので慰謝料を認めるべきではない」,「慰謝料を認めるとしても少額に留まるべき」などの主張がなされることがあります。これは,現在の日本の民法では,ペットは「物」として扱われているからです。

 

1 前提として

現代社会では,犬猫などの動物(ペット)は,民法上,動産として扱われており,つまり,「物」として扱われています。刑事上も,刑法では,「物」同様に扱われています。民法上,刑事上のいずれにしても「物」としての扱いなのです。

そのため,ペットが被害にあったとしてもあくまで損害賠償などの主体となることができるのは人となります。人が所有する所有物への被害としての損害賠償の問題しか生じないのです。賠償請求は,物を壊された場合の当該物の時価相当分で済んでしまうのです。刑法上も物が壊された場合としての器物損壊罪(刑法261条)の問題に着地します。以下では,裁判例や当事務所が担当した案件を説明させて頂きますので,動物(ペット)と一緒に暮らしている皆様のご参考になればと思います。

 

2 動物(ペット)の医療過誤

獣医の医療過誤をめぐっては,以下のような判決があります。

① 糖尿病の犬を入院させながら,獣医師がインスリンを投与せず,その結果死亡させた場合に,飼い主1人あたり30万円(夫婦で合計60万円)の慰謝料が認められた(東京地裁平成16年5月10日判決)

② 飼い猫の乳房や腹部にしこりを見つけたので,獣医師に受診させたにもかかわらず,その獣医師が生検による組織学的検査を行わなかったため,悪性腫瘍を見落とし,猫を死亡させてしまった場合に,飼い主1人あたり35万円(夫婦で合計70万円)の慰謝料が認められた(宇都宮地裁栃木支部平成22年10月29日判決)。

 

3 動物(ペット)が第三者に危害を加えた場合

動物(ペット)が他人に損害を与えた場合にはどう扱われるのでしょうか。基本的に動物(ペット)が「物」として扱われることは,被害を受けた場合と変わりはありません。そのため,動物(ペット)自身が責任を負うことは,当然ありません。しかし,その代わりに動物(ペット)を飼っている人に責任が生じます。飼い主が占有者または管理者としての損害賠償責任(民法718条)を負います。刑法上の責任についても「物」を用いて,何か犯罪をしたものとしてのものしてしか生じないのです。

具体的に,飼い主が自宅の庭で犬を鎖につなごうとしたところ,犬が飼い主の手をかいくぐり外に出てしまい,歩いていた人にかみついて怪我を負わせた場合に,治療費や慰謝料などの損害賠償責任が認められた裁判例があります(名古屋地裁平成18年3月15日判決)。

 また,刑事責任を認めたものとして,自宅を訪れていた客が,犬がいることを知らずに裏庭にいき,そこでつながれていた犬(過去に人にかみついて怪我をさせたことがあった)にかまれて加療約5か月の傷害を負ったという事案で,飼い主に,重過失致傷罪が成立するとされた裁判例もあります(福岡高裁昭和60年2月28日判決)。

 

 

4 最後に

飼い主にとってペットは子供同然であり,亡くしたときの悲しみは大きいものですが,裁判で慰謝料が認められる金額は,それほど大きくはなく,せいぜい数十万円程度にとどまるようです。

これは日本におけるこれまでの法律の整備が不十分であるとからであると考えています。例えば,ドイツの民法では,「動物は物ではない」と明確に規定されていて,連邦基本法(日本の憲法に相当するもの)は「国家はまた,将来の世代に対する責任において,・・自然的な生活基盤及び動物を保護する」として動物保護を国の義務としています。今後も,日本においては,動物愛護管理法を改正する等して,少しずつ動物を護ろう動きへ進んでいくことを願っています。

当職も,愛犬家かつ法律家として,裁判等で全力を尽くし,動物(ペット)が「物」扱いされる社会を変えていきたいと思います。

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