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動物(ペット)の医療事故、損賠賠償の範囲と金額

動物(ペット)を大切にしている人にとって,動物(ペット)は家族同様に大切な存在です。もっとも,医療行為をするにあたり,決してミスがないということは,不可能ですから,動物(ペット)についても,医療過誤(動物の死傷事故)が起きてしまいます。医療行為によるものだった場合,病院や獣医師に対してどのような対応を求めることができるのでしょうか。 人間の場合の医療事故と異なり、動物(ペット)は事前の説明を理解することはできませんし、痛いなどの反応も言うことができません。また、カルテなども管理が杜撰である場合が多く、人間の医療訴訟とは異なる難しさがあります。

病院(獣医師)側にも責任があったということになれば,飼い主に対して,賠償義務が発生します。しかし,動物(ペット)の場合,法律上「物」扱いとなるので,損害賠償金の計算方法が人間とは大きく変わってきます。今回は,動物(動物(ペット))の死傷による損害賠償の範囲について,ご説明します。

 

1 動物(ペット)は法律上「物」となる

動物(ペット)は命ある生き物ですが,法律上は「物」という扱いがされています。この部分が,人間とは根本的に異なります。

動物(ペット)を誤って死なせてしまった場合,死なせた側は,動物(ペット)の飼い主に対して損害賠償の責任を負います。物を壊してしまった場合と同様の賠償責任の範囲にとどまるのが原則です。また,物なので,基本的に「時価」で評価されますし,「物」である動物(ペット)自身による慰謝料請求は認められません。そして,動物(ペット)はお金を稼ぐ手段ではないので,通常の動物(ペット)の場合,将来の逸失利益や休業損害は認められません。

たとえば,人がけがをしたり死亡したりした場合は,被害者である本人の苦痛に対する損害賠償請求権が発生します。

しかし動物(ペット)けがをしたり死亡したりした場合,動物(ペット)自身の苦痛に対する損害賠償請求権は認められません。このように,人と動物(ペット)では,損害賠償に関する考え方が異なっているのです。

 

動物病院で,診断ミスや処置の失敗のため動物(ペット)の病状が悪化したり,死亡したりしてしまうことがあります。この場合,飼い主側が病院に損害賠償を求めるためには,次の2点を満たす必要があります。

①病院側の治療行為について,診断ミスや失敗などの過失があること

②病院側の過失と,動物(ペット)の負傷や死亡との間に因果関係があること

なお,これらの立証は,飼い主側が行わなければなりません。

動物(ペット)が死傷したときの賠償金は,動物(ペット)が負傷したときと死亡したときで異なるので,以下では分けて解説します。

 

2 動物(ペット)が負傷した・病気にかかった場合

まずは,動物(ペット)が負傷したり病気にかかったりした場合の賠償の範囲についてです。動物病院で,処置の失敗によって動物(ペット)の病状が悪化したり,後遺症が残ったりすることがありますし,預かっている間に感染症にかかったりすることもあります。そのようなケースでは,病院(獣医師)に過失があれば,飼い主に対する賠償が必要となります。

 

(1) 治療費

動物(ペット)が負傷したり病気にかかったりすると,治療が必要となります。治療費は,損害賠償の範囲に含まれます。

ただし,医療過誤によって生じた傷病に関する治療費であり,かつ,病院(獣医師)側の過失部分についての賠償となり,相当な範囲に限定されることが多いです。

 

(2) 飼い主の慰謝料

以下で亡くなった場合を説明していますが,動物(ペット)が負傷した場合には,必ずしも慰謝料が認められるわけではありません。なぜなら,動物(ペット)は基本的に「物」であり,物が壊れたからと言って一般的に慰謝料は発生しないと考えられているからです。そうはいっても,動物(ペット)が歩けなくなったり排尿障害が起こったりして,重大な後遺症が残った場合には,飼い主に慰謝料が認められるケースもあります。

金額的には,数万円~数十万円の範囲内となります。

 

3 動物(ペット)が死亡した場合

動物(ペット)が死亡した場合には,以下のような請求が可能であると考えられます。

 

(1) 動物(ペット)の時価

まず,動物(ペット)は「物」扱いとなるので,事故前の「時価」を基準に賠償金を算定します。

時価というのは「今売却したら,いくらで売れるか?」という金額です。

たとえば,10万円で購入した直後の動物(ペット)が死亡した場合には,10万円に近い時価となりますが,購入後1年,2年が経過してくると,価値が低下してきます。里親などになってもらってきた動物(ペット)の場合には,時価は0円ということもありえます。

また,動物(ペット)のコンテストで評価を受けた経歴がある犬や猫,血統書付きの犬猫などの場合には,財産的損害が高額になるケースもあります。過去には受賞歴のある猫の時価が50万円と算定されたケースなどもあります。

そうでない普通の動物(ペット)の場合には,購入後月日も経っているでしょうし,時価はほとんどないと認定される可能性が高くなるでしょう。

 

(2) 飼い主の慰謝料

法律上は物という扱いですが,動物(ペット)を失った飼い主の心の悲しみは大きいものです。

動物(ペット)に対して自分の子ども同様の愛情を注ぐ人も珍しくありません。この気持ちは,一般的にも十分理解できるものであり,動物(ペット)は法律上物であるという単純な論理で終わる話ではありません。

そこで,最近では,裁判でも動物(ペット)を失った飼い主に対する慰謝料が認められるようになっています。昔は35万円程度にしかならないことが多かったのですが,最近では動物(ペット)を大切にする人が増えていることや,動物(ペット)の癒し効果,飼い主の精神的安定に資する効果などに鑑みて,慰謝料が増額傾向にあります。

飼い主が複数いる場合には,人数分の慰謝料が認められることも多く,たとえば夫婦2人が飼い主の場合,それぞれに10万円ずつの慰謝料が認められて合計20万円となるケースなどがあります。

 

(3) 葬儀費用

動物(ペット)が死亡したときには,葬儀を行う人が増えています。そこで,葬儀費用も賠償金の範囲に含まれます。

人間と同様に手厚く供養したいという気持ちは飼い主として自然な感情です。そのため,葬儀費用も賠償金の範囲として認められます。ただし,葬儀費用の全額が認められるとは限らず,数万円程度というケースが一般的です。

実際の事例では15万円程度の葬儀費用が認められているケースが多いです。

 

4 最後に

動物(ペット)を失うことは本当につらいことです。もしあなたの大切な動物(ペット)が獣医師の判断や治療ミスで死亡してしまった場合は,簡単に気持ちの整理をすることはできないでしょう。

当職も,愛犬家かつ法律家として,裁判等で全力を尽くし,動物(ペット)が「物」扱いされる社会を変えていきたいと思います。

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