当事務所では,合同会社に関するお問い合わせをいただく機会が多いため,下記記事にて紹介しておりますが,再度重要な点を記載させて頂きます。
まず,投資を事業の目的とする合同会社が社員権を販売し,多くの出資者を集めたものの,返金などがなされず訴訟になったというニュースは後を絶ちません。
https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/mutouroku/04.html
https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221130/20221130.html
本記事では,新規に合同会社のスキームを立ち上げる会社様にご覧いただけると幸いです。合同会社の社員権について基礎知識から,募集するメリットや注意点などを解説します。
合同会社の社員権募集に当たっては一定の場合を除き,金融商品取引業の登録は不要です。登録が必要な場合であっても登録すれば良いのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょうが,金融商品取引業の登録は許認可の中でも登録が非常に難しいものになっています。
そのため,一般企業,特にスタートアップ企業では登録は実質不可能という状態になっています。こうした点から,金融商品取引業の登録が不要というのは非常に大きなメリットといえるでしょう。
社員権の募集以外に金融商品取引業金融商品取引業の登録が不要な資金調達方法としては,少人数私募債があります。この少人数私募債は主に中小企業が社長やその親族,従業員等の縁故者を対象とすることを想定した社債の募集です。縁故者等が制度の念頭に置かれているため,勧誘対象が50名未満と人数の上限が制限されている点が特徴です。
これに対して,社員権の募集の場合には原則として人数の上限はありません。ただし,集めた資金を株式やFX等の有価証券に投資する場合には500名以上への勧誘は金融商品取引法の規制を受けることになります。ですが,この場合でも499名までは社員権を取得させることが可能なため,実質的に投資を勧誘する対象を増やすことができるというメリットがあります。
合同会社の社員は利益の配当を請求することが可能です(会社法第621条第1項)。この利益の配当に関する事項は定款自治が認められており(会社法第621条第2項参照),定款の定めに従った柔軟な分配が可能です。
これに対して,例えば投資家から投資を集め,不動産投資を行う,不動産ファンドの形式で投資を集めようとする場合には不動産特定共同事業の許可が必要となります。
しかし,合同会社の資産である不動産を運用・投資を行い,それによって得られた利益を分配する場合でも,合同会社への出資は不動産特定共同事業契約に該当しないとされています。そのため,不動産ファンドへの規制を受けることなく会社法の定め通り定款に従った分配が可能というメリットがあります。
このようにメリットのある合同会社の社員権の募集ですが,こうした社員権を投資に活用する上でどのような注意点があるでしょうか。ここからは注意点について解説します。
投資を集めることを目的として合同会社の社員権を用いる場合,前述のようにその態様に応じて様々な法規制がかかる可能性があります。また,合同会社という形態もまだ一般的とは言い難い点からも,こうしたスキームの構築には高度な法的知識が必要となります。そのため,弁護士などをはじめとする法律の専門家の支援が必要不可欠といえるでしょう。
また,合同会社として事業の実態が無い場合には,集団的投資スキームとみなされる可能性もあります。こうした集団的投資スキームとみなされた場合には,金融商品取引法の規制を受けることになるため注意が必要です。
株式会社の場合,出資者である株主は会社に対し株主としての地位を有しており,それに基づいて株主総会などで決議に参加する権利である議決権を原則として有しています(法第308条第1項)。これと同じように合同会社の社員は持分を会社に対して有しており,会社の様々な事項について決議を行う権利を有しています。
しかし,投資を集める目的で合同会社を設立した場合には出資者から会社の経営等について決議をされるというのは不都合なため,このような場合には社員の議決権を制限する必要があります。もっとも,これは明確な法律があるわけではないのですが,例えば国民生活センターが見解を出しています。
それによると,定款で出資者の議決権を完全に排除して集めるという話になると,これは集団的投資スキームに該当しうるとのことです。
また,金融庁としても完全無議決権,社員権としての性質がないのであれば,これは社員権としては認められず,集団的投資スキームだという見解も出しています。ここは議決権をどうするかの様な完全無議決権とした場合に,先ほど言った様に集団的投資スキームとして見られてしまう可能性もあるので,ここは検討が必要です。
合同会社の社員権募集スキームは金融商品取引法だけでなく,平成29年12月1日より,改正特定商取引法が施行されており,特定商取引法にも注意が必要です。
従来,社員権は特定商取引法の対象外でした。
しかし,法施行に伴い,一定の社債その他の金銭債権や,一定の株式会社の株式,合同会社,合名会社若しくは合資会社の社員の持分若しくはその他の社団法人の社員権又は外国法人の社員権でこれらの権利の性質を有するものが新たに特定商取引法の規制対象となっています。
それに伴い,合同会社の社員権の訪問販売や電話勧誘等の形式での販売にあたっては,書面の交付,クーリングオフ等の特定商取引法に定める規制に従う必要があります。
クーリングオフは,どういう風に販売するかによって対象,非対象が分かれます。例えば,訪問販売。これは事業所以外で売る場合も該当するので,セミナーをバンとやってその場で申し込ませるというのも訪問販売になります。そういう場合については,書面の交付をして,そこから8日以内であればクーリングオフができます。
こういう特商法の定めには注意する必要があります。
「合同会社」による社員権の取得勧誘については,近年,事業実態が不透明な合同会社が,その業務を必ずしも把握していない多数の使用人(従業員)を通じて,多数の投資家に対し,不適切な投資勧誘を行っているという相談や苦情が多数寄せられたこと等を受け,証券取引等監視委員会より金融商品取引業の登録が必要な範囲を拡大するなどを求める建議がなされました。
これを踏まえ,金融庁では,合同会社等の使用人(従業員)による社員権の取得勧誘の適正化を図るため,社員権の発行者に関する内閣府令の見直しを行い,令和4年10月3日より施行しております。
本改正後の合同会社等の社員権については,その取得勧誘に使用人(従業員)を含む,業務執行社員以外の者が関与するときは,当該使用人(従業員)等が行う取得勧誘が業として行うものと認められる場合,金融商品取引業の登録が必要となります。
今後も,合同会社の社員権販売はグレーゾーンを利用した投資の募集方法であり将来的に法改正がなされ,その他の法律の規制対象となる可能性は十分に考えられます。
多数の投資者から投資を募る場合には,当然ですがその投資者が死亡した場合のことも考えなければいけません。
相続が発生した場合,合同会社の社員が亡くなると,死亡は退社事由(会社法第607条1項第3号)とされていますので,原則として退社となります。そのため,被相続人(亡くなられた方)の相続人は合同会社の持分を相続することはできません。
その代わり合同会社に対して持分の払い戻し請求権を相続することになります。こうした際に,どういった対応を行うのか,税務面なども考慮に入れた上で制度設計をする必要がある点にも注意が必要です。
このように,合同会社にて社員権販売スキームなどの運営は実際には見た目よりかなり難しいのが現実です。そのため,一般的な会社が,専門家の関与もなく,自社役員と従業員のみでこのようなスキームを構築するのはほとんど無理であると思われます。
当事務所は,多数の企業様から問い合わせを頂いており,現在までに40社の企業様の合同会社の社員権スキームの支援を行い,現在も20社の運用サポートをしています。
様々な面から検討を加え,健全かつ合法的に運営が行えるよう全力でサポートいたしますので,どうぞお気軽にご相談ください。
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