建物オーナーが賃借人に明渡してほしいと考える場合には、基本的に立退料の支払いが必要となります。立退料(読み方:たちのきりょう)の相場、算定方法、消費税について説明していきます。
賃借人との交渉によって明渡しを求める場合には、一般的には賃借人から立退料金を求められることになります。
また、裁判の判決で明渡しを求める場合にも、その前提条件として「正当事由」の存在が認定される必要があります。
正当事由の有無についての判断の要素として、借地借家法は「財産上の給付」を明文で掲げています。実際、裁判で明け渡しを認める判決が出る場合でも、明渡しは一定の金額の立退料の支払いと引き換えとすることが明記されることが一般的です。
もっとも、「1坪あたり〇円くらい」「賃料の〇ヶ月分くらい」などの具体的な相場があるわけではありません。
立退料の算定方法については法律に明文の定めはありませんので、相場は個別具体的事案によって異なります。事案に応じて、移転のための実費・損失の補償額や借家権価格などを考慮して、様々な方法によって立退料の金額が算出されます。そこで、当事務所にて蓄積された交渉や裁判例をもとにして、立退料の相場をご説明します。
賃借人が現在の賃貸建物で営業をしている場合には、これに加え、移転に伴う営業上の損失の補償分等を加算します。これらの合計額が立退料となります。
建物の賃借人の地位に財産的価値が認められる場合の価値を「借家権価格」といい、この借家権価格を基準として立退料を算定します。
借地権割合は、都市部では、住宅地で60%程度、商業施設で70%から80%程度、借家権割合は30%とされることが多いです。そのため、借家権価格は、更地価格の20%という算定になることが多いです。
例えば、更地評価額が1億円の土地がある場合で、借地権割合が70%と仮定すると、借地権の価値は「1億円×70%=7000 万円」と算出されます。
借地権割合と借家権割合を掛け合わせると、約20%となります。したがって、借家権価格は、更地価格の20%という算定になることが一般的です。
事業用賃貸借の場合、上記(1)または(2)の立退料の合計に加えて、「営業補償」も加算されます。
主な加算要素として、以下の事項があります。
通常、営業店舗などでは、退去から移転先での営業再開までの間は営業利益が得られなくなってしまうので、その間の損失を移転費用とは別に補填する必要があるためです。
また、賃貸借契約時における保証金の金額、賃料の金額が低く設定されているなどの事情も調整要素になります。
裁判所が立退料を算定する場面は、更新拒絶・解約申入れを原因とする建物明渡請求訴訟の場合に判断されることになります。裁判所の判例を確認しながら、立退料の計算方法について説明します。
借家権価格の算定式は、以下のとおりとなります。
借地権割合は、都市部では、住宅地で60%程度、商業施設で70%から80%程度、借家権割合は30%とされることが多いです。そのため、借家権価格は、更地価格の20%という算定になることが多いです。
正当事由が認められる場合に、補完要素として立退料を検討することになります。立退料はあくまで正当事由が認められた場合の補完要素に過ぎませんので、そもそも正当事由が認められない場合には、賃借人の同意がない限り、立退料の算定にはなりません。
正当事由については、賃貸人と賃借人側の事情を相対的に比較して、正当事由がどの程度充足されているのかという割合を算定します。
正当事由の充足割合については、以下のような例があります。正当事由にはついては、「建物明渡の正当事由」をご覧ください。争いになっている建物以外に賃貸人が居住できる建物がない場合、賃借人が多額の賃料を滞納していたり、用法遵守義務に違反していたなどの事情がある場合などであれば、正当事由の充足割合は90%程度となると考えらます。
正当事由を考慮した立退料算定方法は以下のとおりです。以下の具体例では、正当事由の充足割合が70%なので、不足部分の30%を立退料で補完したことになります。
以上のとおり、確認してきた立退料には消費税がかかる場合とかからない場合があります。まず消費税とは、①国内取引であり、②事業者による事業により、③資産の譲渡・貸付け、または役務の提供として、④対価を得たときに課されます。
そして、営業補償金ないし移転補償金としての立退料であれば消費税は非課税となりますが(③要件に該当しない)、他方、賃借権の譲渡対価としての立退料であれば消費税は課税されます。
国税庁のホームページを確認すると、立退料の勘定科目については以下のとおりになります。
交渉の段階では、賃貸人が不相当に高額な立退料の支払いを要求されたり、賃借人が本来支払われるべき立退料を得られずに退去を迫られたりする事例もあります。
このように正当事由と立退料が問題となる場面では、専門家である弁護士に相談して十分な交渉を行う必要があるといえるでしょう。
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弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
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