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AV新法の是非(AVが日本から無くなるのか?)

 

AV新法は,急ピッチで成立したため,AVメーカーやプロダクションといった制作公表者もどのように対応をすべきか具体的な対応方法がわからないままAV新法が施行されました。対応方法が分からない製作側は,撮影を中止せざるを得なくなり,決まっていた撮影が中止になってしまったとの話をよく耳にします。

これにより,受け取れるはずの報酬を受け取れなくなってしまったAV女優さん,男優さんが出てしまっており,出演者を保護するはずだった法律が本末転倒の結果になっているというのです。

 

1 AV新法の概要

まず,AV新法とはなんでしょうか。AV新法は,2022年(令和4年)623日から施行された「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」に対する一般的な略称です。

同法の正式名称は非常に長いため,「AV新法」や,「AV出演被害防止・救済法」,「AV被害救済法」などの略称で表現されることが多いです。

 

2 立法の経緯

AV新法という法律が制定された経緯については,2022年(令和4年)41日に民法改正がきっかけとして立法されました。

具体的には,この民法改正により成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたため,18歳・19歳が従前の未成年者取消権の対象から外れることになりました。この未成年者取消権とは,未成年者が親の同意なく締結した契約を取り消すことができるという権利です。

そのため民法改正によって,18歳・19歳の若者が自由な判断ができない状況でアダルトビデオに出演する契約を強要され,取り消すこともできず被害が拡大していってしまうという事態が懸念されていました。

実際にアダルトビデオへの出演者の心身や私生活について重大な被害も発生していたことから,AVへの出演被害者などの支援活動をしている複数のNPO法人が危機感を強め,与党・野党の枠組みを超えて議論が行われました。

その結果,AV新法は議員立法としてわずか1か月半という異例の速さで成立したのです。

 

3 AV新法の内容

(1) 基本原則

AV新法は,出演者の性別・年齢を問わずAV出演契約を無力化するため以下のような基本原則をルールとして定めています。

・制作公表者・制作公表従事者は,出演者の個人としての人格を尊重し,心身の健康・私生活の平穏などを保護し,性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにしなければなりません

・出演者に性行為を強要してはいけません

・公序良俗に反するAV出演契約を有効と解釈するものではありません

 

(2) 契約締結前

アダルトビデオ出演契約はアダルトビデオごとに締結しなければならず,契約締結時には契約書等を交付し,契約内容について説明する義務があります(AV新法第4条~第6条)。例えば,過去の作品を再編集するなどして二次利用する場合は,過去の作品と同一性がないときは,再度の契約が必要になります。

そして,契約書面には,ⅰ)契約当事者の特定事項,ⅱ)契約締結日時と場所,ⅲ)出演者が性行為映像製造物に出演すること,ⅳ)撮影予定日時と場所,ⅴ)出演者の性行為に係る姿態の具体的内容,ⅵ)性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項,ⅶ)公表の具体的方法と期間,ⅷ)公表する者を特定するための必要な事項,ⅸ)報酬額と支払時期,ⅹ)公表する場所やウェブサイト,を記載又は記録しなければなりません(AV新法43項)。

 

(3) 契約履行に関する特則

AV出演契約の履行に関して事業者の義務と出演者の権利については,以下のように定められています(第7条~第9条)。

・契約から1か月間の撮影禁止:AV出演にかかる撮影については,出演契約書や説明書面等の交付・提供を受けた日から1か月間は行うことができません(AV新法71項)。なお,いかなる名称か関係なく,撮影自体と密接に関連する撮影も含まれます(AV新法74項)。

・出演者の拒絶権:出演者は契約で定められた性行為に係る姿態の撮影であっても拒絶することができ,それによって生じた損害を賠償する責任を負いません

・撮影時の出演者の安全を確保する義務:撮影にあたっては撮影を拒絶できるように特に配慮して必要な措置を講じなければなりません(AV新法73項)。

4か月の公表禁止:全ての撮影が終了しても4か月間は制作物を公表することは禁じられており,出演者は撮影された映像を公表前に確認することができます(AV新法9条)。

・出演者による映像確認機械の付与義務:制作公表者は,公表が行われるまでの間に,出演者に対し,撮影された映像のうち出演者の性行為映像製造物への出演に係る映像であって公表するものを確認する機会を与えなければなりません(AV新法8条)。

 

(4) 無効・取消し・解除に関する特則

AV新法にはAV出演契約の無効・取消し・解除に関して,以下のような特則が定められています。

ア 無効事由

まず,以下に挙げる条項が契約に含まれていた場合は,その契約は無効となります。

ⅰ)性行為映像製造物を特定せずに,出演者に契約の相手方その他の者が指定する性行為映像製造物への出演をする義務を果たす条項(AV新法101項)

ⅱ)出演者の債務不履行について損害賠償額を予定し,又は違約金を定める条項(AV新法1021号)

ⅲ)制作公表者の債務不履行により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し,又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項(AV新法1022号)

ⅳ)制作公表者の債務の履行に際してされたその制作公表者の不法行為により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し,又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項(AV新法1023号)

ⅴ)出演者の権利を制限し又はその義務を加重する条項(AV新法1024号)

 

イ 取消し事由

制作公表者が説明義務と交付義務に違反したとき,制作公表従事者が出演契約の内容等に関して出演者を誤認させるような説明その他の行為をしたときは,出演者は,出演契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができます(AV新法11条)。

 

ウ 解除事由

契約を解除するにあたっては,催告が必要ですが,以下の事由がある場合は,出演者は催告することなく,契約を解除することができます(AV新法12条)。

ⅰ)1ヶ月間の撮影禁止期間(AV新法71項),又は配慮義務(同条3項)に違反して,撮影が行われたとき(同法1211号)

ⅱ)映像確認義務違反(AV新法8条)に違反して,公表が行われたとき(同法1212号)

ⅲ)公表禁止期間(AV新法9条)に違反して,期間経過前に公表が行われたとき(同法1213号)

上記事由による解除があった場合,制作公表者は,解除に伴う損害賠償請求をすることができませんが(AV新法122項),当事者は原状回復義務を負うため(同法14条),出演者が報酬を受け取っていた場合は返還する必要があります。

  

エ 任意解除

撮影時に出演に同意していたとしても,公表から1年(経過措置として施行後2年間は2年)は,無条件に契約を解除することができます(AV新法131項)。任意解除は,書面又は電磁的記録による通知を発した時に効力を生じます(同条2項)。

任意解除があった場合,制作公表者は,解除に伴う損害賠償請求をすることができません(AV新法133項)。また出演者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて,不実な告知をしてはならず(同条5項),任意解除等を妨げるため,出演者を威迫して困惑させてはなりません(同条6項)。

当事者は原状回復義務を負うため(AV新法14条),出演者が報酬を受け取っていた場合は返還する必要があります。

 

(5) 被害拡散防止のための仕組み

出演者は,出演契約に基づくことなく映像制作物の公表が行われたときや,出演契約の取消し・解除をしたときは,当該性行為映像制作物の制作公表を行い又は行うおそれがある者に対し,当該制作公表の停止又は予防を請求することができます。

 

 (6) プロバイダ責任の特則

出演者の権利侵害の程度が大きくなるとの懸念から,プロバイダ責任制限法(インターネット上の誹謗中傷について,削除や発信者情報開示請求に係るプロバイダ等事業者の損害賠償責任について定めた法律)の特則を定め,削除や発信者情報開示請求を利用しやすい規定があります。

具体的には,以下の場合,プロバイダ等事業者は,削除や開示請求に応じた場合の事業者の損害賠償責任を負いません。

① 特定電気通信による情報であり,性行為映像製造物によって権利を侵害されたとする出演者から,ⅰ)権利を侵害したとする情報,ⅱ)権利が侵害された旨,ⅲ)権利が侵害されたとする理由,ⅳ)侵害情報が性行為映像製造物に係るものである旨を示して特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置を講ずるよう申出があったとき

② 特定電気通信役務提供者が,侵害情報の発信者に対し侵害情報等を示して侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうか照会したとき

③ 発信者が照会を受けた日から2日を経過しても,発信者から侵害譲歩送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき 

このように,出演者がウェブサイトのプロバイダに映像制作物の配信停止を申し立てた場合には,プロバイダから情報発信者に対する削除同意照会の期間が,通常の「7日間」から「2日間」に短縮され,AV制作物の削除を迅速に行えるようにする仕組みが規定されています。

 

 (7) 映像制作者に対する罰則

映像制作者に対する罰則については,法人・個人を問わず,出演者と出演契約を締結する者が対象となります。

任意解除を妨害するために,不実告知や威迫・困惑させる行為をした場合には,「3年以下の懲役」または「300万円以下の罰金」が科されます。さらに法人に対しては1億円以下の罰金が科されます。

契約書等の交付義務違反や説明義務違反があった場合には,「6か月以下の懲役」または「100万円以下の罰金」が科されます。法人に対しても同額の罰金が科されます。

 

4 最後に

このようにAV出演被害防止・救済法では,アダルトビデオ事業者に対し書面交付等の義務を規定すると同時に,任意解除権等といった出演者の権利を規定することで,アダルトビデオ出演被害の発生及び拡大の防止を図り,被害者を救済することを目指しています。

すでにAVの撮影をしてしまったり,映像制作物が販売・配信されたりしている場合であっても,AV新法に基づいて出演契約を解除・取消しができたり,公表を差し止めたりできる可能性があります。

まずは,「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」(#8891に相談してください。ワンストップ支援センターは,性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。産婦人科医療やカウンセリング,法律相談などの専門機関とも連携してAV出演契約の取消し・解除・差し止め請求などの方法について適切なアドバイスが受けられます。

それでも解決できない場合には当事務所にご相談ください。出演契約の取消し・解除,アダルトビデオの販売・配信停止を請求していくことになります。

当事務所では,AV出演契約の解除や販売・配信の停止,ネットにアップロードされた動画の削除,加害者への損害賠償をご希望される方からのご相談を受け付けております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でサポートします。AV出演でお困りの方は,まずは当事務所の弁護士までご相談ください。

 

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