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合同会社にて従業員は社員権の販売をしちゃダメなのか?(社員権スキーム)

1 はじめに

近頃、「合同会社の従業員が当該合同会社の社員権の取得勧誘を行うことが難しくなったのか。」と質問を受けることが多いです。

結論から申し上げると、合同会社の従業員が当該合同会社の社員権の取得勧誘を業として行うことは、いかなる場合も、「金融商品取引業」に該当することになりました。

これらを受けて、今回は、令和4年6月21日付けで「合同会社」による社員権の取得勧誘に関する建議、金融商品取引法の基本的な概念も踏まえて解説したいと思います。

なお、当事務所は、20社くらいの合同会社の顧問として、設立から運営まで携わっています。

資金調達に関する解説については以下をご参照ください。

資金調達としての合同会社の社員権スキーム(令和3年7月22日) 

2 証券取引等監視委委員会の「建議」とは

証券取引等監視委委員会が行う勧告の根拠となる法令は金融庁設置法21条となります。

 金融庁設置法21条では、証券取引等監視委委員会は、証券取引検査等の結果に基づき、必要があると認めるときは、必要と認められる施策について内閣総理大臣、長官又は財務大臣に建議することができると定められています。

 

3 建議の内容について

⑴ 概要

 証券取引等監視委員会は、令和4年6月21日付けで、「合同会社」による社員権の取得勧誘について内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、建議を行いました。

証券取引等監視委員会:金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について(令和4年6月21日)

 

当該建議をうけて、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」)が改正され、改正後の内容は令和4年10月3日から施行されています。

金融庁:「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの結果等について(令和4年9月12日)

 

⑵ これまでとの変更点

定義府令の改正により、合同会社等(合同会社・合資会社・合名会社)の従業員(使用人)による社員権の取得勧誘が金融商品取引業(以下「金商業」)に該当するかどうかについて重要な変更がなされました。

 

具体的には以下のとおりです。

改正前(2022(令和4)年10月2日以前)

2022(令和4)年10月3日以降

  • 合同会社等の従業員が業として行う社員権の取得勧誘は、特定の場合を除き、金商業に該当しない。
  • 特定の場合とは、合同会社等の社員権が特定有価証券(金商法51項)に該当する場合である。
  • 合同会社等の従業員が業として行う社員権の取得勧誘は、金商業に該当する。

 

すなわち、改正前は金融商品取引業に該当しないとされていた場合(すなわち、合同会社等の社員権が特定有価証券に該当しない場合)であっても、令和4年10月3日以降は、金商業に該当することになります。

 

⑶ 建議の背景

では、証券取引等監視委員会は、このような建議をすることになったのでしょうか。「合同会社」による社員権の取得勧誘について建議が行われた背景について解説します。

まず前提として、証券取引等監視委員会は、その取組みとして、登録業者による未公開株式及びファンド等の販売・勧誘等の重大な金融商品取引法違反行為に対して、金商法第192条第1項に基づく裁判所への禁止・停止命令の申立て及びそのための調査(金商法第187条第1項に基づく調査)を行っています。なお、金商法第187条第1項に基づく調査は、委員会だけではなく、関東財務局においても行われています。 

「合同会社」による社員権の取得勧誘は、委員会の取組みである無登録業者等への対応に関連することから、委員会によって建議が行われました。

 

そして、建議が行われた背景については、委員会は、概要、以下のように述べております。

①近年、合同会社の社員権に対する出資と称して、不適切な投資勧誘を行っているという外部からの相談や苦情が多数寄せられている。

②しかし、定義府令の改正前の法律では合同会社の従業員による社員権の取得勧誘は大部分が金融商品取引業に該当しないため、証券取引等監視委員会の調査権限が及ばない状態である。

③そのため、投資者保護を強化するためには、合同会社の従業員による社員権の取得勧誘についても金融商品取引法の適用範囲を拡大するなどの対策が必要である。

 

なお、正前の委員会の対応ですが、改正の内容を理解するのに役立つ事案がありますので、こちらも紹介します。

具体的には、合同会社GPJベンチャーキャピタルについての事案となります。

当該事案について、委員会は以下の対応を行いました。特に②の対応が委員会の建議の内容と関連するものとなります。

①合同会社GPJベンチャーキャピタル、その代表社員1名、専務執行役員1名の3名(以下「当社ら」)が、一般投資家に対して、①同社の社員権の取得勧誘と②集団投資スキーム持分の取得勧誘を行っており、これらの行為がいずれも金商法第28条第2項第2号に規定する「第二種金融商品取引業」に該当するとして、金商法第192条第1項に基づき裁判所に対して申し立てを行った。

②その後、「合同会社の社員権が特定有価証券に該当しない場合、当社が行う当該合同会社の社員権の取得勧誘については金融商品取引業登録が不要となったこと」を踏まえて、委員会は①についての申し立ては取り下げた。

 (参照 証券取引等監視委員会:合同会社GPJベンチャーキャピタル及びその代表社員等2名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所の禁止及び停止命令の発令について(令和2年9月11日))

 

4 おわりに

今回は証券取引等監視委員会の「建議」について、具体例とともに解説しました。

合同会社等の社員権の取得勧誘については金融庁も注意喚起を行っておりますので、ご注意ください。また金融庁は消費者庁とも連携し、不適切な投資勧誘を行っている合同会社に対して目を光らせています。以下、金融庁の  

また、貴社が実施しようとしている合同会社を用いたスキームが適法なのか、運営に際して返戻が必要なのか(出資金の払い戻し、持ち分の払い戻しなど)、登録が必要となる金融商品取引業に該当するかどうかの法的判断については専門的な知識が必要となります。

このようなご相談に関して、合同会社の経験豊富なオリエンタル法律事務所までお気軽にご相談ください。

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