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賃貸借契約における保証(民法改正)

賃貸人であれば、確実な賃料の回収を心がけたいところです。

賃料収入を確実に確保するために、連帯保証人の設定は不可欠です。
特にオフィスビル等の賃貸借契約においては、未払賃料や原状回復費用等について保証の対象が広範になり高額となり得ることから、極度額をどの程度の水準にするか問題となります。
改正民法では,保証人の保護を強化する規定が新設されました。

1 極度額設定の義務付け

(1)保証極度額を適切な金額に設定する

 改正民法では,個人の保証人を保護する目的から,一定の範囲に属する不特定の債務(不動産賃貸では家賃,共益費,原状回復工事費など)を主たる債務とする保証契約について,法人ではなく個人が保証人となる場合には,あらかじめ極度額を定め,保証人は極度額を限度としてのみ保証債務を負担することが規定されました(改正民法465条の2)。
つまり、賃貸借契約において保証人が負担する最大限度額、いわゆる極度額を取り決めておかなければ、保証契約は無効となります。

極度額の定め方ですが、「80万円」や「100万円」などと具体的な金額を設定する方法でも、「賃料1年分」とする定め方でもかまいません。
賃貸人として、保証を確実にするために極度額を高く設定した場合、保証人のなり手が見つからないおそれがあるほか、高額な極度額を理由に保証契約等が公序良俗違反で無効とされる可能性もあります。
具体的な金額については、賃貸借契約から生じた損害額に関する国土交通省の統計資料等を参考に決めることも考えられますのでご参考前に記載します。

賃料 損害額
中央値 平均値 最高値
16~20万円 64.8万円 97.3万円 478万円
20~30万円 85.8万円 126.2万円 606.8万円
30~40万円 104.5万円 156.8万円 887.4万円
40万円以上 270万円 437.3万円 2445.3万円
※国土交通省「極度額に関する参考狩料」より作成
  • 国土交通省「極度額に関する参考資料」より作成
(2)個人保証人以外の対応方法の検討

実務的には、個人補償の極度額を上げることを検討するだけでなく、以下の対策も考えられます。

  • 保証会社を利用すること
  • 敷金・保証金額を適切な水準に設定すること
  • 賃借人負担による火災保険の利用

なお、保証会社においては、例えば、保証の対象を賃料等の限定し、賃借人の故意・過失によって生じた損害賠償債務等を保証の対象外とする場合があるため、留意が必要です。

2 連帯保証人に対する情報提供義務

民法改正においては、賃貸借契約に基づく債務その他の債務を保証するにあたって、一定の場合に保証人に対して情報の提供を行う義務が課されることになりました。その概要は以下のとおりです。

  保証契約締結時の
情報提供義務
履行状況の
情報提供義務
期限の利益を喪失した
場合の情報提供義務
改正民放 465条の10 458条の2 458条の3
義務主体 主債務者(賃借人) 債権者(賃貸人)
時期 保証の委託をする時 保証人の請求時 期限の利益損失を知った
ときから2か月以内
保証人の要件
  • 個人のみ
  • 委託を受けた者のみ
  • 個人or法人
  • 委託を受けた者のみ
  • 個人のみ
  • 委託の有無は不問
主債務の
対象範囲
主債務は賃金等債務に限らない
主債務は、事業のためのものに限る 主債務は事業のためのものに限らない
提供すべき
情報
  • 財務情報
  • 収支の状況
  • 主債務以外の債務
  • 他の担保
主債務 (元本、利息等)の不履行の有無と残額等 主債務者(賃借人) の期限の利益損失
違反の効果 債権者(賃貸人)が状況提供義務の違反について悪意、有過失であれば、保証契約を取消可 規定なし
もっとも、債務不履行に基づく損害賠償請求や保証契約の解除が可能と思われる
情報提供時までの遅延損害金の請求不可
期限の利益損失を主張できなくなるわけではない

(1)契約締結時の情報提供義務

改正民法では,保証人を保護する目的から,事業のために負担する債務について個人が保証する場合には,主たる債務者が保証人に対し,以下の情報を提供しなければならないものと定められました。

①主たる債務者の財産の収支の状況
②主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況
③主たる債務の担保として他に提供し,または提供しようとするものがあるときはその旨およびその内容

改正民法645条の10は,「事業のために負担する債務」である場合の規定ですので,店舗や事務所使用等を目的とする賃貸借契約についての場合の規定となります。居住目的の賃貸借契約の場合には,適用されません。また,法人が連帯保証人の場合には適用されません。
そして,賃借人が情報を提供しなかったり,誤った情報を提供したりしたために連帯保証人が事実を誤認して連帯保証契約を締結した場合において,賃貸人が情報提供義務違反を認識していたか,認識できたときには,連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことができます。
賃貸人としては,後の紛争を避けるために,賃借人が連帯保証人に対してどのような説明をしたのかを確認することが必須となります。そこで,連帯保証契約締結の際には,以下の内容を記載した書面を別途,作成しておくべきです。

連帯保証人は,賃借人から,賃借人の財産状況等に関して以下の事項について説明を受けたことを確認する。

  • 主たる債務者の財産の収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無ならびにその額および履行状況
  • 主たる債務の担保として他に提供し,または提供しようとするものがあるときはその旨およびその内容

 また,賃貸借契約締結の際には,「賃借人は,連帯保証人に対して説明した以下の事項についての内容が事実であることを保証する。」などと賃借人の表明保証のような書面を別途,作成しておくべきです。

(2)連帯保証人から請求があったときの情報提供義務

改正民法は、賃貸人は、委託を受けた保証人から請求があったときには,「賃貸人は賃借人の債務の履行状況等に関する情報」、具体的には,賃借人の債務不履行の有無,賃料債務の元本、利息、違約金、損害賠償その他の債務に従たるすべてのものについての不履行の有無、残額、弁済期が到来している額に関する情報について提供しなければならないとしています。
この情報提供義務については,連帯保証人が個人のみならず,法人の場合にも適用されます。

(3)賃貸人が期限の利益を喪失したときの情報提供義務

賃貸借契約期間中,賃借人が期限の利益を喪失した場合には,賃貸人がこれを知った時から2か月以内に連帯保証人にその旨を通知する必要があります。
この情報提供義務は,連帯保証人が個人の場合にのみ適用されます。

通常,賃貸借契約における賃料支払債務等は,期限の利益が付与されたものではありませんので,賃貸人が期限の利益を喪失したときの情報提供義の適用の場面はあまり想定できません。
ただし,たとえば,賃貸人と賃借人との間で,滞納賃料等について分割払いの合意を締結し,2回分支払いを怠ったら,期限の利益を喪失し,残額を一括で支払う合意をした場合などには適用され得ます。期限の利益を喪失した場合,賃貸人は,連帯保証人に2か月以内にそのことを通知しなければなりません。

以上が,不動産賃貸借契約の連帯保証人に関係する改正民法の条文です。

3 最後に

賃貸人の情報提供義務に関してですが,賃貸人としては,改正民法に規定された上記情報提供義務に留意しておけば安心というわけではありません。
たとえば,賃貸人が連帯保証人に約7年半分の未払賃料等を請求した場合において,賃借人が行方不明になってから2回目の契約更新を迎えた日以後の債務については連帯保証人の責任を追及することが信義則に反し許されないと判断された事件があります。

賃貸人が賃借人の義務履行が期待できないことを認識していながら,長期間に渡って放置すると,連帯保証人に対する責任追及が認められなくなるリスクはありますので,必要に応じて,連帯保証人にとって重大であると思われる情報については連帯保証人に対して開示することも考えなければなりません。

オリエンタル法律事務所では、不動産案件に集中的に取り組み、連帯保証人の付与など賃料の確実回収に努めていますので、一度ご相談いただければと思います。

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