敷金は、借主が部屋を汚したり、損傷させたりしたときに修繕費用として充てるために、貸主が事前に預かるお金です。
賃貸物件の多くは契約時に敷金の支払いが必要です。敷金を預かっておくことで、家賃の滞納リスクの担保にもなります。
民法では敷金について、「賃料その他の賃貸借契約上の様々な債務を担保する目的で賃借人が貸借人に対して交付する停止条件付きの返済債務を伴う金銭」と定められています。
敷金は担保として預かるお金のため、家賃の滞納もなく、原状回復した状態で返還すれば全額戻ってくるというのが基本的な考え方です。
上記のとおり、敷金とは、担保として預かるお金であるため、賃貸人は、賃借人から家賃の滞納もなく、原状回復した状態で返還を受ければ、敷金の全額を返還する義務を負います。
通常の賃貸借契約では全額敷金が返金されることはなく、敷引特約などの条項が付されていることが一般的です。
敷引特約とは、敷金の返還にあたって、賃借人が賃貸人に預託した敷金から一定の金額を差し引くことを約する特約を意味します。
敷引き特約の趣旨とは、一般的に、①賃貸借契約締結への謝礼、②退去後の空室期間に賃料が得られないことへの補填、③自然損耗に関する原状回復費用、④更新料の補充などと言われています。
上記のとおり、賃貸借契約を締結する場合、賃借人の賃料債務等を担保する目的で、賃借人から賃貸人に対して敷金が預託されます。
そして、賃貸借契約が終了して目的物が明け渡されると、賃貸人は、敷金を賃借人に返還する義務を負うが、目的物の明渡しの時点で賃借人の未払賃料や原状回復費用等の債務が残っている場合には、賃貸人は敷金からこれら賃借人の債務を控除した残額を賃借人に返還します。
これに対し、敷引特約がある場合、賃貸人は、目的物が明け渡された時点で上記のような賃借人の債務がなかったとしても、敷金からあらかじめ特約で定めた金額を控除します。
敷引特約について、民法上の規定はありませんので、当事者間で契約書に合意しておかないと発生はしませんし、逆に、契約書に記載があれば、禁止もされません。
この点に関する最高裁判例としては、平成23年3月24日判決にて、「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引き特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」としています。最高裁は、敷引き特約について直ちに消費者契約法10条により無効であるとは言えないが、賃料の額、礼金等の一時金の授受の有無等に照らして「敷引きの額が高過ぎる」と判断される場合には、特段の事情がない限り、消費者契約法10条により「無効」であると判断しました。
当該事案における敷引金の額は、賃貸借契約の経過年数に応じて賃料月額の2倍弱から3.5倍まで変動するものでしたが(敷金の額は賃料4ヶ月分程度)、諸般の事情を考慮したうえで、これを高額に過ぎるものではないとして、当該事案における敷引特約を有効であると判断したのです。
また、最高裁判所は別の事案において、敷引金の額を敷金の60%(賃料月額の3.5倍)とする敷引特約についても、諸般の事情を考慮したうえで有効であると判断しています。
これらの判決を参考にすれば、敷引きの額が家賃の3.5倍程度にとどまり、その他に礼金等の負担がない場合には、敷引きの額が高過ぎることはないと判断されるため、敷引きは「有効」と考えられます。
敷引特約をめぐるトラブルを防止するためには、賃貸借契約の締結時に契約書に明確に定め、媒介に当たっては重要事項説明書にも明示し、賃借人にその将来の負担について明確に認識させておくことが重要です。
オリエンタル法律事務所では、不動産案件に集中的に取り組み、賃貸借契約の契約条項の明確化、事後の紛争防止に努めておりますので、一度ご相談いただければと思います。
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