建物賃貸借契約において、通常損耗についても賃借人の負担とすることができるのでしょうか。
建物賃貸借契約において、建物の通常の使用に伴う汚損、通常損耗は、賃料の支払いと対価関係にあると考えられています。すなわち、経年によって、床・壁・天井・建具・設備等が汚損、損傷することがあっても、通常の使用をしている限り、汚損、損傷を回復するための経費は賃料に含まれていると考えられており、そのため、通常損耗の原状回復費用は、原則として賃貸人の負担であるとされています。
令和2年4月1日から施行された改正民法では、賃借人は通常損耗については原状回復義務を負わない旨が明文化されました。賃貸借が終了したとき、賃借人は貸室を原状に復して明け渡すと賃貸借契約に規定されている場合、賃貸人は通常損耗についての原状回復を賃借人に求めることができないことが明確にされました。
通常、賃借人の負担にならないとされる損耗
次の賃借人を確保するためのグレードアップ |
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自然損耗、通常損耗 |
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経年劣化その他 |
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もっとも、民法の原状回復に関する規定は任意規定ですので、民法とは異なり、通常損耗について賃借人が原状回復義務を負うとの特約を設けることも認められます。
一般的に、オフィスビルテナントの賃貸借契約の場合は、賃借人が通常損耗の補修費用を負担する特約は有効であるとされています(東京高判平成12年12月27日、東京地判平成23年6月30日)。これに対し、消費者契約法が適用される賃貸借契約においては、無効にと判断される可能性があることに留意すべきです。
そのため、どのような場合に通常損耗特約が有効となり、無効と判断されているのか確認することが必要不可欠となります。最高裁平成17年12月16日判決では、以下の関連から有効性を判断しています。
以上の最高裁裁判所が定めたルールに関して、実際に裁判所が具体的な事例においてどのような判断をしているのかご紹介します。
以上のとおり、通常損耗の範囲が明確に定められており、賃借人が通常損耗補修特約を正確に理解した上で合意したといえるのであれば、通常損耗補修特約が有効であると認められる可能性が高くなります。しかし、賃料が通常損耗の補修費用を含む対価であると考えられており、通常損耗の原状回復費用について賃借人に負担させるとすると、賃借人に二重の負担を強いることになりかねないことから、通常損耗補修特約を、消費者契約法第10条に違反するとして無効とした裁判例は複数見受けられます(大阪高裁平成16年12月17日判決、京都地裁平成16年6月11日判決、東京簡裁平成17年11月29日判決、東京地裁平成21年1月16日判決)。
そこで、通常損耗補修特約を定める場合には、最高裁平成17年12月16日判決が定めた要件に従って、建物のどの部分について、通常損耗補修を含め、貸し渡した当時の原状に復する義務を賃借人が負うのかについて、賃貸借契約において具体的かつ明確に定める必要があります。
具体的には、賃貸借契約書の別表等に、賃借人が原状回復義務を負う範囲や項目、原状回復工事を行う場合の施工単価もしくは算定基準・目安等などの条件を記載して賃借人が退去時の負担の範囲・金額を予測できるようにしておく必要があります。実務においては、通常損耗特約により賃借人に負担させるほか、定額補修分担金や敷引特約を規定することで実質的に賃借人に負担させることも考えられます。
名称 | オリエンタル法律事務所 | ||||
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弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
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