会社の運営に当たっては、株主総会決議を経なければならない場面が多くあります。株主総会の決議をするためには、株主宛に招集通知を発送し、実際に株主総会を開催しなければならないのが原則です。
しかし、株主の全員が、株主総会で決議する事項について賛成・同意しているケースにおいても、わざわざ時間を合わせて一同に会し、実際に株主総会を開催しなければならないとなると会社にとっても株主にとっても負担となります。
そのような場合に対処するため、会社法319条1項の株主総会の決議の省略および会社法320条の株主総会への報告の省略の制度を利用することにより、実際には株主総会を開催することなく、株主総会決議・報告があったものとみなされるようにすることができます。また、これらの制度はそれぞれ、株主総会の「書面決議」「書面報告」とも称されています。
株主総会の書面決議の制度を利用すれば、株主総会の招集手続はもちろん、開催の手間を省くことができるので、会社の運営に当たって非常に便利です。
書面または電磁的記録による意思表示が必要ですので、口頭での同意はNG、電子メールでの同意はOKということになります。
株主総会の書面決議は、取締役または株主が株主総会の目的である事項(決議事項)を提案し、この提案について株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をすることにより成立します。
書面決議を行った場合も、株主総会議事録を作成し、以下の事項を記載する必要があります(会社法施行規則72条4項1号)。
① 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
② ①の事項の提案をした者の氏名または名称
③ 株主総会の決議があったものとみなされた日
④ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
株主総会の目的である事項(取締役の選任など)を、みなし株主総会決議により行う場合、当該事項を提案できる者は取締役または株主とされています。
株主全員に当該事項を提案する前に、当該提案について取締役会あるいは取締役全員(または過半数)の承認を得なければならないかどうかについては、承認が必要だ・不要だという両方の理論がありうるところ、裁判例を踏まえた場合には他の取締役の承認を得られるのであれば得ることを推奨します。
株主総会決議に関して、会社法319条の書面決議を利用した場合、実際に株主総会を開催することはありませんが、株主総会議事録を作成しなければなりません(会社法施行規則72条4項1号)。
例えば、取締役選任を書面決議で行ったような場合、新たな取締役の選任について登記をする際には、この株主総会議事録を法務局に提出しなければなりませんので、正確に作成をする必要があります。
みなし株主総会決議は、議決権のある株主全員の同意の意思表示が会社に到達した日に成立します。
5月7日に決議があったとみなしたい場合でも、5月7日までに同意書を会社まで返送してくださいと3月末頃に株主に提案書・同意書を送付すると、5月6日までに全員の同意書が揃ってしまうこともあるかもしれません。5月6日に全員の同意書が揃ったのであれば、株主総会の決議があったものとみなされた日は5月6日となります。
決議日を調整する場合、「なお、12月7日に決議の効力が発生します。」などのように決議に期限を設ける方法や、会社の役員等が株主の1人なのであれば、当該役員が同意書を提出するタイミングを調整(上記の例では当該役員のみ12月7日に提出する)するような方法が考えられます。
決議日はいつでもよく決議内容の効力発生日を調整したいのであれば、提案内容に効力発生日を設ける方法が考えられます。例えば「平成28年12月25日付けで、当会社の定款を別紙のとおり変更する。」などです。
株主全員からの同意を得れば、株主総会決議の効力は生じます。
もっとも、株主総会決議の効力自体には影響はありませんが、会社法は、①株主総会議事録、②株主からの同意書のいずれについても、会社本店で10年間備え置かなければならないと定めていますので(会社法318条2項、319条2項)、注意が必要です。
株主からの同意書について、書面ではなくPDFデータで提供を受けたような場合は、社内のPCハードディスク等に10年間、保管をしておくことが必要となります。
取締役の就任の登記のように、株主総会議事録をその登記申請の添付書類として提出する必要があるケースでは、みなし株主総会議事録も取締役の選任を証する書面として提出することができます。提案書と同意書は提出する必要がありません。
なお、みなし株主総会議事録を添付書類として提出するときも、株主リストの添付は必要です。
取締役は原則として、定時株主総会で事業報告を行う必要があります(会社法438条3項、439条)。しかし、株主総会を経ていなくてもその報告がなされたとみなされるのが、みなし報告の制度です。定時株主総会において報告事項がある場合は、会社法第319条第1項ではなく会社法第320条により、株主全員に当該報告があったとみなすことができます(株主総会への報告の省略)。書面報告を行った場合の株主総会議事録の記載事項は、以下のとおりとなります(会社法施行規則72条4項2号)。
① 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
② 株主総会への報告があったものとみなされた日
③ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
このように、書面決議は簡易な方法で株主総会の決議及び株主総会への報告を行うことができる点で便宜であるといえます。他方で、書面の記載事項等のミスが決議の瑕疵につながるおそれがあり、注意が必要です。
また、実務上は、会社が事前に書面決議・書面報告についての了承を株主から得たうえで、書面または電子メール等で提案書・同意書を株主に対して送り、株主が、送られてきたまたはプリントアウトした同意書に署名捺印(記名押印)して会社に提出するという方法がとられることが多いと思います。
オリエンタル法律事務所では株主総会に関する手続きに関して、効果的かつ合理的な開催に努めておりますので、一度ご相談いただけますと幸いです。
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