賃貸住宅は,単身世帯の増加等を背景に,我が国の生活の基盤としての重要性が一層増大しているところですが,賃貸住宅の管理については,オーナーの高齢化等により,管理業者に委託するケースが増えています。
しかし,管理業務の実施を巡り,管理業者とオーナーあるいは入居者との間でトラブルが増加しており,特にサブリース業者については,家賃保証等の契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発し社会問題となっており,オリエンタル法律事務所にも今まで数々の相談が寄せられてきました。
そこで,今回は,賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解説から,実務的な疑問点の解決まで幅広く整理していますので,ご活用いただき,この賃貸管理の新しい時代のスタートを迎える準備しましょう。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案が,令和2年6月12日,可決成立しました(告示公布 令和2年6月15日)。
新たにサブリース業者と賃貸住宅所有者との間の賃貸借契約の適正化のための規制措置を講ずるとともに,賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設けることで,「管理業務の適正な運営」と「借主と貸主の利益保護」を図るための法律です。
今後,賃貸住宅の管理業務は法の下に適正に遂行されることが求められます。そのためには,法律が施行される時期や法律に定められている業務,罰則等を明確に理解していなければなりません。
賃貸住宅における良好な居住環境の確保を図るとともに,不良業者を排斥し,業界の健全な発展・育成を図るために,以下の制度が設けられました。
委託を受けて賃貸住宅管理業を行う事業を営もうとする者について,国土交通大臣の登録を義務づけ
・業務管理者の配置
事務所ごとに賃貸住宅管理の知識・経験等を有するものを配置
・管理受託契約締結前の重要事項の説明
具体的な管理業務の内容・実施方法等について書面を交付して説明
・財産の分別管理
管理する家賃等について自己の固有の財産等と分別して管理
・委託者への定期報告等
業務の実施状況等について管理受託契約の相手方に対して定期的に報告
トラブルを未然に防止するため,全てのサブリース業者の勧誘時や契約締結時に一定の規制を導入し,サブリース業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者(勧誘者)についても,契約の適正化のための規制の対象となりました。そして違反者に対しては,業務停止命令や罰金等の措置により実効性を担保しています。
なお,勧誘者とは,特定転貸事業者と特定の関係性を有する者であって,当該特定転貸事業者の特定賃貸借契約の締結に向けた勧誘を行う者を指します。
サブリース業者・勧誘者による特定賃貸借契約(マスターリース契約)勧誘時に,家賃の減額リスクなど相手方の判断に影響を及ぼす事項について故意に事実を告げず,又は不実を告げる行為の禁止
サブリース業者・勧誘者による特定賃貸借契約(マスターリース契約)の条件について広告するときは,家賃支払い,契約変更に関する事項について,著しく事実に相違する表示,実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させるような表示を禁止
サブリース業者・勧誘者による特定賃貸借契約(マスターリース契約)の締結前に,家賃,契約期間等を記載した書面を交付して説明
賃貸住宅管理業法では,賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて,以下の①②の業務を行う事業を賃貸住宅管理業と定義した上で,かかる賃貸住宅管理業を営もうとする者は,原則として国土交通大臣の登録を受けなければならないものとしました。
①当該委託に係る賃貸住宅の維持保全(住宅の居室及びその他の部分について,点検,清掃その他の維持を行い,及び必要な修繕を行うことをいう。以下同じ。)を行う業務(賃貸住宅の賃貸人のために当該維持保全に係る契約の締結の媒介,取次ぎ又は代理を行う業務を含む。)
②当該賃貸住宅に係る家賃,敷金,共益費その他の金銭の管理を行う業務(上記①に掲げる業務と併せて行うものに限る。)
対象となるのは,賃貸住宅であり,オフィス,店舗等の管理の受託は賃貸住宅管理業には該当しない。また,住宅であっても,例えば賃貸の用に供しない区分所有建物の管理を区分所有者の団体から受託する業務は賃貸住宅管理業法の対象とはならないものと考えられ,この場合には,別途,マンションの管理の適正化の推進に関する法律の対象となり,同法に基づきマンション管理業の登録の要否が問題となり得るものと考えられる。
※管理戸数が200戸未満の者は対象外(ただし,登録する事は可能)
※登録費用は9万円。
※5年ごとに更新が必要。
※更新料は18,700 円(オンラインにより登録の更新申請を行う場合は18,000 円)。
登録拒否の例としては以下のような事例が考えられます。
まずは,管理業務を遂行するために必要な財産的基礎を保有していない場合です。この点,登録の申請の日を含む事業年度の前事業年度における財産及び損益の状況が良好ではなく,負債の合計額が資産の合計額を超え,支払不能に陥っている状態である場合には,管理業務を遂行するために必要な財産的基礎を保有していないと判断される可能性が高いといえます。
次に,業務管理者を確実に選任すると認められない者である場合です。「業務管理者を確実に選任すると認められない者」とは,登録を受けようとする者の営業所又は事務所の数に足りるだけの要件を備える業務管理者を確認できない場合等を意味します。
事務所毎に,賃貸住宅管理の知識・経験等を有する者(業務管理者)を配置する必要があります。
※業務管理者は管理業務の管理及び監督をする責任があり,各営業所若しくは事務所に1名以上配置する必要がある。他の営業所・事務所との兼任は不可。
※業務管理者が管理・監督できない状況下では管理受託契約を締結してはならない。
業務管理者の要件は,管理業務に関し2年以上の実務経験等を有する者であって,以下①又は②に該当する場合です。
①登録証明事業による証明を受けた者(施行日から1年以内に国土交通大臣が指定する講習を修了した者は①とみなす)
②宅地建物取引士で,国土交通大臣が指定する管理業務の実務講習を修了した者
また,営業所又は事務所においてその従業員が行う管理業務等の質を担保するために必要な指導及び監督等をし得るだけの数の業務管理者を配置することが望ましいと言われています。
そして,業務管理者が管理・監督すべき事項は,管理受託契約における重要事項説明書の説明及び書面の交付に関する事項,管理受託契約書の書面交付に関する事項,賃貸住宅の維持保全の実施に関する事項等です。
具体的な管理業務の内容・実施方法等について書面を交付して説明する必要があります。管理受託契約締結前の重要事項説明については,賃貸人が契約内容を十分に理解した上で契約を締結することができるよう,説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましいといえます。
また,ガイドラインでは「賃貸不動産経営管理士」が重要事項説明をすることが望ましいと記載されています。そして,管理受託契約の際に重要事項説明を行う必要がない者とは,賃貸住宅管理業者,特定転貸業者,宅地建物取引業者等です。管理受託契約締結前の重要事項説明では,管理業務の内容及び実施方法,報酬並びにその支払の時期及び方法,管理業務の内容及び実施方法の賃貸住宅の入居者に対する周知に関する事項,管理受託契約の更新及び解除に関する事項を説明する必要があります。
賃貸住宅管理業者は,受託した管理業務の全部を他の者に対して再委託してはならないものと定められています。
全部の再委託は禁止されているが,反対に一部の再委託は禁止されていないことから,受託業務を部分的に他の業者に委託することは妨げられないものと解されます。
賃貸住宅管理業者は,管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃,敷金等の金銭を自己の固有財産及び他の管理受託契約に基づく管理業務において受領する家賃,敷金等の金銭と分別して管理しなければならないものとされています。
その他,賃貸住宅管理業者には,証明書の携帯等,帳簿の備付け等,標識の掲示,委託者への定期報告が義務付けられ,業務上の知り得た秘密につき守秘義務が課されています。
業務の実施状況等について,管理受託契約の相手方に対して定期的に報告する必要があります。
※ 委託者への報告を行うときは,管理受託契約を締結した日から1年を超えない期間ごとに,及び管理受託契約の期間の満了後,遅滞なく,管理業務の実施状況等を記載した管理業務報告書を作成し,これを委託者に交付して説明しなければならない。
※ 報告事項の内容は,管理業務の実施状況,管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況及び対応状況等とされ,そのほかの事項についても,賃貸人の求めに応じて報告することが望ましい。
※ 賃貸住宅管理業者は,賃貸人の承諾を得て,管理業務報告書に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができ,この場合は,管理業務報告書のデータを適切に保存することが望ましい。
国土交通大臣は,賃貸住宅管理業の適正な運営確保のため必要があると認めるときには,その必要の限度において,賃貸住宅管理業者に対して,業務改善命令を行うことができ,法令違反等の一定の事由が生じたときには,登録の取消し又は業務停止を命じることができるものとされています。
また,賃貸住宅管理業者から監督官庁への定期的な報告制度は設けられていませんが,実効的な監督機能が働くように,必要があると認めるときには,国土交通大臣は,事務所等への立入り,帳簿書類の検査等を行うことができるものとされています。
賃貸住宅管理業者の規制とともに賃貸住宅管理業法のもう一つの柱であるサブリースの適正化との関係では,賃借人が賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結される賃貸住宅の賃貸借契約を「特定賃貸借契約」と定義の上で,かかる特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者(サブリース事業者)を「特定転貸事業者」と定義し,特定転貸事業者に必要な規制を及ぼすこととしています。
この点,賃借人が人的関係,資本関係その他の関係において賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定める者(例えば,賃貸人の親族,賃貸人が会社である場合における賃貸人の親会社,子会社,関連会社など)である賃貸借契約は,特定賃貸借契約から除外されて,規制の対象外となります。
特定転貸事業者は,賃貸住宅管理業者のような登録制度は設けられておらず,登録を受けることは必要とならないが,規模の大小を問わず,一律に以下に述べる規制の適用を受けることになります。
いわゆるマスターリース契約の締結を促す広告において,オーナーとなろうとする不動産所有者が賃貸事業の経験・専門知識が乏しいことを利用し,メリットのみを強調し,賃貸事業のリスクを小さく見せる表示等を行うことが後を絶ちません。
そのため,賃貸住宅管理業法は,特定転貸事業者(サブリース業者)又は勧誘者が,特定賃貸借契約(マスターリース契約)に基づいて特定転貸事業者が支払うべき家賃,賃貸住宅の維持保全の実施方法,特定賃貸借契約の解除に関する事項等について,著しく事実に相違する表示又は実際のものよりも著しく優良あるいは有利であるような表示を行う行為(誇大広告及び虚偽広告等)を禁止しています。
特定転貸事業者による,誤った情報や不正確な情報を用いた勧誘や強引な勧誘等,相手方の意思決定を歪めるような勧誘,同様の方法により契約の解除を妨げる行為により,オーナーとなろうとする多くの不動産所有者が被害を受けています。
そこで,賃貸住宅管理業法においては,
・特定転貸事業者又は勧誘者が,特定賃貸借契約の締結の勧誘をするに際し,又はその解除を妨げるため,特定賃貸借契約の相手方又は相手方となろうとする者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項について,故意に事実を告げず,又は不実のことを告げる行為
・特定転貸事業者又は勧誘者による特定賃貸借契約に関する行為であって,オーナー等の保護に欠ける行為
について禁止しています。
上述のとおり,オーナーとなろうとする者は,賃貸住宅を賃貸する事業の経験・専門知識に乏しい者が多く,特定転貸事業者との間の情報格差は著しいものがあります。
そこで,オーナーとなろうとする者が契約内容を正しく理解した上で,適切なリスク判断のもと,特定賃貸借契約を締結することができるよう,賃貸住宅管理業法は,特定転貸事業者に対し,契約締結前に,オーナーとなろうとする者に書面を交付し,説明することを義務づけています。
なお,実際に説明する者の資格について,賃貸住宅管理業法に定めはありませんが,ガイドラインによれば,「一定の実務経験を有する者や賃貸不動産経営管理士など専門的な知識及び経験を有する者によって説明が行われることが望ましい」とされ,また説明のタイミング(時期)については,ガイドラインに「マスターリース契約の内容を十分に理解するための熟慮期間を与えることが必要である。そのため,マスターリース契約を締結するための重要な判断材料となる重要事項の説明から契約締結までに1週間程度の十分な期間をおくことが望ましい。」と具体的なスケジュールの記載がありますので,ご参考にしてください。
特定転貸事業者は,契約の相手方となろうとする者の承諾を得て,重要事項説明書に記載すべき事項を,書面ではなく電磁的方法(電子メール,WEB からのダウンロード,CD-ROMの交付等)により提供し,またテレビ会議を用いて説明することが可能となっています。
説明すべき重要事項とは,賃貸住宅管理業法施行規則に定められているところ,対象となる賃貸住宅,家賃の額,支払期日及び支払方法等の賃貸の条件,賃貸住宅の維持保全の実施方法,損害賠償額の予定又は違約金に関する事項,責任及び免責に関する事項,契約期間に関する事項等多岐に渡りますので,国土交通省が公表している重要事項説明書の雛型をぜひご参照し,漏れのないようご注意ください。
特定賃貸借契約は,家賃その他賃貸の条件,維持保全の実施方法や費用分担,契約期間,契約解除の条件等多岐にわたる複雑なものとなるため,契約締結後に契約内容や条件を確認できるよう,特定転貸事業者に対し,契約締結時に相手方に必要な事項を記載した書面を交付することを義務づけています。
なお,賃貸住宅管理業法及び同法施行規則に定める各事項が記載された契約書であれば,当該契約書をもってこの書面と扱うことができるところ,国土交通省が公表する特定賃貸借標準契約書には,各事項が漏れなく記載されているので,ご参考にしてください。
特定転貸事業者に関する業務状況調書,賃借対照表及び損益計算書,又はこれらに代わる書面(貸借対照表,損益計算書などが包含される有価証券報告書又は商法上作成が義務付けられる商業帳簿等)を特定賃貸借契約に関する業務を行う営業所又は事業所に備え置き,特定賃貸借契約の相手方等の求めに応じ,閲覧させなければなりません。
特定転貸事業者が上記①から⑤までに違反し,又は勧誘者が上記①②に違反した場合には,国土交通大臣は,違反の是正のための措置の指示,業務停止命令の発令を行うことができ,また,必要と認めるときには,特定転貸事業者又は勧誘者の事務所の立入り,帳簿書類の検査等を行うことができるものとされています。
本法律の施行の際,現に賃貸住宅管理業を営んでいる者は,本法律施行の日か
ら起算して1年間は賃貸住宅管理業を営むことができるとされています。そのため,本法律施行の時点で,賃貸住宅管理業の登録を受けなければならない者は,施行から1年以内に,業務管理者を設置のうえ,登録をする必要がありますので,ご注意ください。
国交省が実施した「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査(家主)」によると,管理業者との間でトラブルが発生したと回答したオーナーの割合は,約46%(令和元年度)に上るようです。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の施行によって,所有者から信頼される賃貸管理業者を目指すべく,法に沿った運用が求められます。
オリエンタル法律事務所では改正に関する手続きに関して,効果的かつ合理的な開催に努めておりますので,一度ご相談いただけますと幸いです。
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