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職業紹介と募集情報等提供

労働法分野で多くのお問い合わせをいただく内容として、人材派遣・職業紹介の領域があげられます。

労働者に対する人権侵害の反省の観点から、労働者派遣や職業紹介は、原則的かつ広範囲に禁止されていましたが、自由に雇用調整をしたい使用者側からの要求が強く、むやみに規制を強化することは得策でないと考えられた結果、法規制は徐々に緩和されてきた経緯があります。

今回は、職業紹介制度に関する規制を確認していきたいと思います。

 

1 職業紹介と募集情報等提供

求人者と求職者をマッチングするビジネスといっても、具体的にどのようなサービスを提供するのかによって、職業安定法上、「職業紹介」と「募集情報等提供」に分かれます。そして、それによって法律の規制も変わってきます。

(1)職業紹介

職業紹介とは、職業安定法4条1項において、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と定義されています。

また、判例においては、職業紹介とは「求人および求職の申込を受けて求人者と求職者の間に介在し、両者間における雇用関係成立のための便宜をはかり、その成立を容易ならしめる行為一般を指称し、必ずしも、雇用関係の現場にあって直接これに関与介入するの要はない」と解されています。

つまり、①求人者や求職者からの申込みを受けて、②両者の間に立ち、③雇用関係成立に向けて④何かしらの助力を加えるサービス(雇用関係が円滑に成立するように世話をするサービス)を提供する場合には、「職業紹介」に該当することになります。

(2)募集情報等提供

募集情報等提供とは、職業安定法4条6項において、「労働者の募集を行う者若しくは募集受託者の依頼を受け、当該募集に関する情報を労働者となろうとする者に提供すること又は労働者となろうとする者の依頼を受け、当該者に関する情報を労働者の募集を行う者若しくは募集受託者に提供すること」と定義されています。
つまり、ウェブサイト上で、求人情報や求職者情報の検索サービスを提供するのみで、サイト運営者自身が求人・求職の申込みを受けるものではない場合には、「募集情報等提供」となります。

(3)職業紹介と募集情報等提供の区別基準

職業紹介と募集情報等提供は、法律上に定義がありますが、近年、インターネットによる求人情報・求職者情報の提供が広まる中で、ウェブサイト上で求人情報又は求職者情報を閲覧可能にするだけでなく、併せて求人者と求職者との間の双方向的な意思疎通を中継したり、求職条件又は求人条件に適合する求人情報又は求職者情報を自動的に送信する仕組みを設けるなど、従来の情報提供の態様とは大きく異なるものが出てきています。

これらの中には職業紹介と募集情報等提供のどちらに該当するのか容易に判断しがたい事例もあります。

このような状況から、厚生労働省は、インターネットによる求人情報・求職者情報提供がどのような場合に職業紹介に該当するのかということに関して、「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」というガイドラインを示しました。

同ガイドラインによると、インターネットによる求人情報・求職者情報提供は、以下のいずれかの場合には、職業紹介に該当することになります。

 

①提供される情報の内容又は提供相手について、あらかじめ明示的に設定された客観的な検索条件に基づくことなく情報提供事業者の判断により選別・加工を行うこと。

②情報提供事業者から求職者に対する求人情報に係る連絡又は求人者に対する求職者情報に係る連絡を行うこと。

③求職者と求人者との間の意思疎通を情報提供事業者のホームページを介して中継する場合に、当該意思疎通のための通信の内容に加工を行うこと。

④上記①ないし③のほか、情報提供事業者による宣伝広告の内容、情報提供事業者と求職者又は求人者との間の契約内容等から判断して、情報提供事業者が求職者又は求人者に求人又は求職者をあっせんするものであり、インターネットによる求人情報・求職者情報提供はその一部として行われているものである場合には、全体として職業紹介に該当する。

 

同ガイドラインでは、上記②にあたる具体例として、マッチングサイト運営者が、自ら積極的に求職者または求人者に連絡を行い、応募や採用の勧奨、採用面接日時の調整、情報の追加的提供などを行う場合が挙げられています。

また、上記④にあたる具体例として、マッチングサイト運営者が、「貴方にふさわしい仕事を面倒見る」、「貴社に最適の人材を紹介する」等と宣伝して求職者または求人者を募り、その求職者または求人者に対して、あっせんしようとする求人者や求職者の事業所名、氏名、電話番号等をインターネットを通じて提供する場合が挙げられています。

逆に、上記③にあたらない具体例として、マッチングサイト上にある求人の求人者または求職者に対し、求職者または求人者がそのホームページを経由してメールを送ることにより直接オンライン上で応募または勧誘できる仕組みを設けるだけで、マッチングサイト運営者がその当事者間の通信内容に加工を行わない場合を挙げています。

 

2 職業紹介事業の種類と規制

職業紹介事業には、「有料職業紹介事業」と「無料職業紹介事業」の2種類があります。

(1)有料職業紹介事業の規制

有料職業紹介事業とは、営利を目的とするか否かにかかわらず、職業紹介に関して手数料または報酬などの対価を受けて行う職業紹介事業をいいます。

有料職業紹介事業を行うためには、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法30条1項)。これに違反し、無許可で有料職業紹介事業を行った場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(職業安定法64条1号)。

また、職業紹介の対価として受領する手数料に関して規制が設けられていることにも注意が必要です。
手数料の上限が法律で定められており、
求人の申込みを受理した場合には「受付手数料」として、1件につき710円、職業紹介の結果、雇用契約が成立した場合には「紹介手数料」として、支払われた賃金額の11%に相当する額が手数料の最高額となります。

もっとも、手数料の種類や額などの手数料に関する事項を定めた「手数料表」を厚生労働大臣に届け出た場合には、前述した上限を超えて手数料を徴収することができます。
なお、手数料は原則として求人者側から徴収するものであり、求職者から手数料を徴収することはできません。しかし、例外的に、職業が芸能家やモデルなどの場合には求職者から手数料を徴収することができます。
これらの手数料に関する規制に違反した場合にも罰則があり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

さらに、有料職業紹介事業においては、後述の無料職業紹介事業と異なり、取扱職業の範囲が定められていることにも注意が必要です。 

具体的に職業紹介が禁止されている職業とは以下のとおりになります。

①港湾運送業務

港湾運送業務とは、港湾労働法第2条第2号に規定する港湾運送の業務又は同条第1号に規定する港湾以外の港湾において行われる当該業務に相当する業務として厚生労働省令で定める業務をいいます。

②建設業務

禁止される建設業務というのは、いわゆる現場作業です。土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業及びこれらの準備作業です。これらを直接行う現場作業員については、有料職業紹介事業においては紹介することができません。

ただ、大規模な建設現場等の現場事務所内で行われる事務作業等の事務員については、紹介は可能です。また、一応、現場にはでるが、現場作業はせずに、工事の施工計画を作成し、それに基づく工事等の工程管理、品質管理、安全管理等を行う、いわゆる「施工管理業務」については、紹介が可能です。 

林業については、地ごしらえ、植栽の業務については建設業務に該当するため、紹介はできません。しかし、下刈り、つる切り、徐伐、枝打、間伐は、建設業務に該当せず、職業紹介が可能です。

なお、建設現場作業については、「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」の規定に基づいて厚生労働大臣の許可を受けた認定団体は、建設現場作業員の有料職業紹介が可能です。ただ、基本的には、これらの許可は、某建設業協会等の事業主を構成員とする一定の事業主団体に限られますので一般の会社は取得できません。

③その他有料の職業紹介事業においてその職業のあっせんを行うことが当該職業に就く労働者の保護に支障を及ぼすおそれがあるものとして厚生労働省令で定める職業

となっています。

 

「有料の職業紹介事業においてその職業のあっせんを行うことが当該職業に就く労働者の保護に支障を及ぼすおそれがあるものとして厚生労働省令で定める職業」については、現在は特段の職業が定められていません。

そうなると、港湾運送業務と建設業務以外は、どんな職業でも問題ないなのかと思ってしまいますが、そのようなことはありません。

次の各号のいずれかに該当する者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処するとされています。

①暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

②公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行つた者又はこれらに従事した者

  

(2)無料職業紹介事業の規制

無料職業紹介事業とは、営利を目的とするか否かにかかわらず、職業紹介に関して、いかなる名義でも手数料または報酬などの対価を受けないで行う職業紹介事業をいいます。

無料職業紹介事業を行うためにも、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります(職業安定法33条1項)。

これに違反した場合にも、有料職業紹介事業の場合と同様に、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(職業安定法64条5号)。

なお、学校や特別の法律により設立された法人が無料職業紹介事業を行う場合には、厚生労働大臣の許可を受ける必要はなく、厚生労働大臣に対する届出により行うことができます(職業安定法33条の2、33条の3)。

無料職業紹介事業においては、有料職業紹介事業と異なり、取扱職業の範囲に制限がありません。そのため、有料職業紹介事業では紹介することのできない港湾運送業務に就く職業や建設業務に就く職業についても、これらを求職者に紹介することができます。

 

3 職業紹介事業における運営上の注意点

都道府県労働局では、管轄の職業紹介所に対する指導監督を行っていますが、労働局の指導監督時の確認ポイントは下記のとおりです。

(1)帳簿(求人・求職管理簿、手数料管理簿)の備付

①求人管理簿

求人者名称、求人者所在地、求人者の連絡先、求人受付年月日、求人の有効期間、求人数、求人職種、就業場所、雇用期間、賃金、職業紹介の状況

②求職管理簿

求職者氏名、求職者住所、求職者の生年月日、希望職種、求職受付年月日、求職有効期間、職業紹介の状況

③手数料管理簿

手数料支払者名称、徴収年月日、手数料の種類、手数料の額、手数料の算出根拠

 

(2)下記5項目の掲示

①業務運営規定、②取扱職種・地域の範囲、③手数料に関する事項(返戻金制度)、④苦情処理に関する事項、⑤個人情報の取扱いについて

一般閲覧に便利な場所に「許可証」、「手数料表」、「業務運営管理規程」、「個人情報適正管理規程」が掲示されているか否かが重要になります。

 

(3)労働条件の明示

以下のとおり、求人者より労働条件の明示をうけ、求職者に対して明示しているか(書面)が重要になります。

①業務内容、②労働契約の期間、③就業場所、④始業・終業時間、時間外労働の有無、⑤賃金、⑥社会保険適用の有無、⑦使用期間に関する事項、⑧労働者を雇用使用とする者の氏名または名称、⑨労働者を派遣労働者として雇用する場合はその旨

 

(4)事業報告書の提出

毎年4月30日までに、その年の前年4月1日から3月31日までの間における職業紹介事業を行う全ての事業所ごとの職業紹介事業の状況を報告書にまとめ、管轄労働局に提出します。また、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」に情報入力する必要があります。

4 最後に

インターネット上のウェブサイトで、求人者と求職者とがマッチングできるサービスを提供するようなビジネスを始める際には、まず、そのビジネスが「職業紹介」に該当するのか否かを確認することが大切です。そして、「職業紹介」に該当する場合には厚生労働大臣の許可が必要となり、無許可で営業した場合には刑事罰の対象にもなるため、この点の確認をしておく必要があります。
また、募集情報等提供事業に関しても職業安定法上の努力義務があることから、指針等を確認しておく必要と言えます。

オリエンタル法律事務所では職業紹介と募集情報等提供事業に関して,顧問契約など多くのお問い合わせをいただき,経験を積み上げておりますので一度ご相談いただけますと幸いです。

 

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