近頃,残業代の支払請求事件において管理監督者の残業代支払義務の質問をいただくことが多いので,今回は,管理監督者に関する残業代を示した日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)を参照しつつ,企業側に残業代の支払い義務がない管理職を説明していきます。
労働基準法41条2号は,管理監督者の立場にある労働者に対しては,労働時間・休日・休憩に関する規制が適用されず,時間外労働に対する割増賃金(残業代)や休日労働に対する割増賃金(休日手当)を支払わなくてもよいと規定しています。
そのため,問題になっている管理職が労働基準法でいうところの「管理監督者」にあたるかどうかによって,残業代の支払いが必要とされるか扱いが異なってきます。
労働基準法でいうところの「管理監督者」とは,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者とされており,この場合は,労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんので,残業代の支払いは必要ありません。
ただし,深夜勤務については規定が除外されていませんので,午後10時から翌朝5時まで働いた場合には,深夜勤務手当の支払いが必要となります。
管理監督者であるか否かは,肩書でなく,実態で決まります。
しかし,実際に現場で働く管理職の場合,自分が管理監督者に該当するのか判断が難しいこともあります。
裁判でも管理監督者に当たるのか否かがよく争われますので,日本マクドナルド割増賃金請求事件判決を確認しつつ,判断基準をより詳しく解説していきます。
日本マクドナルド割増賃金請求事件判決(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)は,管理監督者性に関する規範部分のみの検討ですが,以下のように判示しています。
使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならず(労働基準法32条),労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないし(同法34条1項),毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないが(同法35条1項),労働基準法が規定するこれらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法1条2項),この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。
しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。
この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず,これを採用することはできない。
管理監督者であるかどうかは,以下の点を総合的にみて判断されます。
つまり,経営方針・労働条件・採用の決定に関与していて,経営者と一体的な立場にあることが求められます。また人事考課を行ったり,遅刻や欠勤の承認など労務管理上の指揮権限があるかどうかも,管理監督者の判断要素となります。
この基準は,その労働者がどの程度企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているかを問題としています。事業経営に関わる程度が高ければ高いほど,管理監督者性を肯定する方向にいきます。
なお,この判決の特殊性は,この事業経営への関与度の基準について,「労務管理を含め」としていること,つまり,これは逆にいうと,労務管理以外の分野においてでも,事業経営への関与度が高ければ管理監督者となり得るという判断をしているところであると思います。
労働者側としては,職務内容・職務権限・職務上の責任などがどのようになっていたかを主張立証した上で,それらからすれば事業経営に関与していたとはいえないということを主張していくことになります。
管理監督者であっても出退勤時刻の把握は必要ですが,勤務時間を拘束し,遅刻や早退分を給与から減額したり,懲戒処分の対象としているような場合は,労働時間に対する自由裁量がないと判断され管理監督者とは認められません。
労働者側としては,勤務態様を主張立証し,そのような勤務態様であれば,労働時間を定めて労働させたとしても何ら不都合はないことや労働時間の管理をすることすることも可能であること,そして実際に労働時間が管理されており,出退勤の自由がなかったことなどを主張していく必要があります。
賃金面では,管理監督者としてふさわしい待遇を受けているか,一般社員との年収額が逆転していないかどうかが判断要素となります。管理監督者ではないリーダー職から,管理監督者とされる課長に昇格したにも関わらず,残業代が支払われなくなったために賃金が下がってしまう場合などは,管理監督者として認められません。
労働者側としては,他の従業員の賃金や一時金などと自分の賃金や一時金などを主張立証し,両者を比較した場合に,残業代が出なくても容認できるほどの優遇を受けているわけではないこと,また,実際に労働時間が管理されていたことを主張していくことになります。
上記で確認してきた判断基準は,どれか1つの基準でも管理監督者性を否定する方向に働けば管理監督者性が否定されるとかいうものではなく,これらに関わる事実総合的に考慮して判断することになります。
管理職=管理監督者とはならない事,会社によって判断基準が異なる事を考慮した上で,中途半端な管理職は設けずに,管理監督者とする場合の業務内容や賃金を見直す事が必要といえます。
管理監督者なのか,名ばかり管理職なのかの区別が非常に難しいため,残業代を出すか悩んでいる企業の方,管理職であることを理由に残業代が出ずにお悩みの方は,労務管理問題を取り扱っているオリエンタル法律事務所へご相談ください。
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