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医療法人の事業承継とMS法人

「ご高齢のために診療の継続が難しくなった」,「早期リタイヤをして余生を楽しみたい」などの理由から診療所やクリニックを後継者に承継することがあります。

このような将来に備えて,事業承継の流れや概要,税制面の注意点,相続税や贈与税の納税猶予に関する特例制度などを事前に知っておく必要があります。

しかしながら,医療業界においても,事業承継という観点から利用されるようになってきていますが,一般法人に比べるとまだまだ積極的とはいえません。

今回は,財団を除く医療法人は大きく「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」に分けられますが,割合の多い持分あり医療法人のケースを考えて,業界の現状や事業承継の課題,M&Aのスキームなどについて解説していきたいと思います。

 

1 医療法人

⑴ 概要

医療法人とは,医療法の規定に基づいて,病院や診療所,介護老人保健施設などを経営することを目的に設立される法人です。

一般の法人とは違い,各都道府県知事の認可が必要とされます。

 

⑵ 種類

医療法人の種類は,社団医療法人,財団医療法人,特定医療法人の3種類に分類され,全国に約54,000件が存在しています。

このうち,社団医療法人が全体の99%以上を占め,さらに「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」に区分されます。

持分のある医療法人は全体の約72%で,持分ない医療法人は約28%です。

また,常勤医師1名で構成される1人医師医療法人は全体の84%となっています。

 

⑶ 留意点

医療法人の理事長に関して,他の営利法人の代表を兼ねることは認められません。

その場合,医療法人の理事長は法人を代理することができなくなりますので,都道府県に対して取引ごとに特別代理人を選任する必要が出てきます。

ただし,一方の医療法人と取引がない営利法人については,兼務があってもとくに問題はありません。また,医療法人の理事長が他の医療法人の理事長になるのは,相応の理由がない限りは認められません。

医療法人は社員で構成する「社員総会」と,役員で構成する「理事会」からなっています。法人の重要な運営事項は社員総会で決定され,社員は出資額(拠出額)に関わらず,社員総会で一人1個の議決権を持っています。また,社員資格は医師,歯科医師であることを求めるものではありません。

ですから医療法人の場合,将来的にその事業規模が拡大してきたとしても,理事長を中心として親族が社員総会の議決権をしっかり固め,経営方針を揺るぎなく実行していくことが何より重要となります。

最後に,医療法人は法律によって剰余金の分配ができないだけでなく,院長個人への貸付も制限されます。個人開業時代のように,手許資金が不足した場合にクリニックからお金を引っ張るような「事業主貸し」という処理は安易にはできません。個人で必要な資金は給与から支払うということを理解しておきましょう。

 

2 出資持分の譲渡 

⑴ 譲渡手続

当事者双方において,医療法人の対価などの条件について合意ができれば,出資持分譲渡契約を交わし,対価のやり取りをすることで医療法人オーナーの立場は譲渡されることになります。

しかしながら,出資者が入れ替わっただけでは医療法人の事業承継が成立したとは言えません。出資者への配当が認められていない以上,医療法人の事業承継では出資持分だけでなく,社員,理事,理事長の交代を同時に行うことが求められます。

まず,最初に検討すべきは社員となります。社員の交代は,旧社員が退社届を提出し,新社員の入社を社員総会で承認することにより行われます。

仮に全社員が入れ替わる場合は,社員ゼロという状況は作り得ないため,先に新社員の入社を行って,その後旧社員の退社を行うという流れになります。

ポイントは,旧社員の退社について各人から同意を得る必要があるということです。すでに述べたように,社員はよほどのことがない限り自主退社が原則で,死亡以外での退社はできません。つまり事業承継が進んでも旧社員が在籍し続け,社員総会の議決に反対票を投じることが可能なのです。そのため第三者への事業承継を決めたら,社員への説明を行い,早めに退社届の提出を促しておくことが大事です。

社員の交代が進めば,あとは理事,理事長については,事業への影響を加味しつつ,継続・交代を相談していくことになります。特に病院,クリニックの管理医師院長)は,理事または理事長に就任することが求められているため,こうした医師まで理事交代を強引に進めると事業の存続自体が危ぶまれる可能性があります。

⑵ 対価の算定

出資持分の譲渡については,親子間の場合には相続税や贈与税に配慮しつつ,他の被相続人との調整も図る必要があります。

もっとも,第三者に対する事業承継の場合にはそうした配慮は不要になります。

また,出資持分の譲渡対価についても,相続・贈与の場合は純資産価値や利益水準を元に類似業種の指標を参考にして算定されましたが,第三者の場合は譲渡側と譲受側の合意に基づくものであることを前提に,DCF法,時価純資産価額法及び類似取引比較法などを参考に譲渡対価を試算していくことになります。

留意点としては,財務諸表のP/L(損益計算書),B/S(貸借対照表)や一般的な取引価格を参考にしつつ,事業価値を譲渡側・譲受側のそれぞれがどう考えるかという点にあります。

3 おまけ

事業承継の際に,譲渡側の医療法人の取引関係が譲受人として買手になる場合が見受けられますので,最後にMS法人(メディカルサービス法人)について説明していきます。

⑴ MS法人(メディカルサービス法人)

MS法人とは「メディカルサービス法人」の略称のことで,法律でとくに定められた法人ではありません。

医療法においては,営利法人で一般的に行われるような業務は規制されています。

そこで,医療部門以外の事業については別法人化し,診療と経営を切り離すことで効率化を図ることを目的に,MS法人を設立します。

医療法人の場合,「剰余金の配当が禁止→利益が内部留保される→出資持分の評価が上がる→事業承継が困難になる」といった課題があります。

そこで,MS法人の設立を通じて所得を分散させれば,節税対策としても有効な手段となりますし,医療と経営(所有)を分離しながら収益事業の業務拡大を行うことも可能になります。

MS法人が主に行えるのは以下の業務です。

・病医院の不動産賃貸

・医療品材料の仕入,在庫管理

・医療用機器等の販売,リース

・給食業務の受託

・レセプト請求,会計業務

・リネンサービスなど

なお,その他の取引については,薬機法,医療法による規制に注意を払う必要があります。

 

⑵ MS法人運営上の注意点

MS法人運営の際には,「病医院とMS法人との取引が適正であるかどうか」に注意します

特に取引金額の算定根拠を明確にする,契約書を作成する,という2点を重視する必要があります。

医療法の観点でいうと,たとえば医療法人がMS法人を介して実質的に利益配当をしたことになれば医療法に違反しますし,節税にウエイトを置きすぎるとMS法人への資金が過大となって,病医院の資金繰りを悪化させてしまいます。

また,MS法人と医療法人の役員の兼務は,行政サイドとしては原則認めない姿勢です。とくに,理事長がMS法人の代表を兼ねることは利益相反の観点から認められません。

 

⑶ MS法人の活用事例

MS法人の出資者は,相続対策を考えればご子息が望ましいといえます。

また,MS法人の代表者は医療法人の理事長と違い,医師資格を保持している必要はありません。

そのため,将来のことを考慮して,医師であるご子息を医療法人の後継者に,医師でないご子息をMS法人の代表者にする,といった形も考えられます。

とくに利益が高額になっている医療法人については,上記の取引によって医療法人の所得を合法的に分散させ,利益を抑え,出資評価を引き下げることが相続対策につながります。

さらにMS法人に資金力があれば,換金が困難な自社株や出資買取りなどを機動的に行うことができ,納税資金対策にもなります。これは医療法人には認められていません。

 

4 最後に

医療法人の事業承継に関しては行政も絡んでくるため,通常の中小企業の事業承継よりもより複雑になります。

オリエンタル法律事務所では医療法人の顧問,事業承継に積極的に取り組んでいますので,持分割合の算定などの方法,社員の地位の移転など総合的な提案を行うことが可能となっています。

医療法人を売却されるか考えている運営者の方々,医療法人を設立するのではなく購入しようと考えているお悩みの方は,事業承継を多く取り扱っているオリエンタル法律事務所へご相談ください。

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