近頃、デット性の資金調達や証券化において、少人数私募債のご相談をいただくことが多くあります。少人数私募債とは、簡略に申し上げると、株式会社や合同会社などの会社が、会社法に基づき、金融商品取引法の定める一定の少人数の者に対して行う「社債」の発行勧誘をイメージください。オリエンタル事務所では、少人数私募債を利用した資金調達の書面作成及び各種手続き面での支援もいたしております。
まず、社債には、公募債と私募債の2種類が存在します。
公募債(有価証券の募集)とは、金融機関などの適格機関投資家のみを相手とする場合を除き、50人以上への勧誘を予定しているものになります(金融商品取引法2条3項)。
一方で、私募債とは、募集に該当しないもので、具体的には、適格機関投資家のみを相手とする場合、もしくは50人未満の投資家に対して募集を行うものになります(同条同項)。少人数私募債は、この私募債のうち、50人未満の投資家に対して募集を行うものになります。
社債は、金融商品取引法上の「有価証券」に該当しますが(金融商品取引法2条1項5号、2項)、社債を不特定多数の者に対して発行する場合、「有価証券の募集」となり(金融商品取引法2条3項)、有価証券届出書の提出(金融商品取引法4条、5条)や有価証券報告書による継続開示といった開示規制が課せられる可能性があり、この場合、社債発行にかかるコストが大きくなります。
一方で、「有価証券の私募」に該当すれば(金融商品取引法2条3項)、上記のような開示規制は課されず、社債発行のコストを抑えることができます。
「有価証券の私募」は、①取得勧誘を行う相手方が少人数である場合(少人数私募)と、②取得勧誘を行う相手方が金融機関などの適格機関投資家に区分されます。このうち、前者の形態により発行される社債を少人数私募債といいます。
まずは、少人数私募債の発行条件として以下のとおりになります。
少人数私募の発行主体として自然人ではなく、法人である必要があります。
実際に社債を取得した者が49名以下というだけではなく、社債の取得についての勧誘の相手方を49名以下とする必要があります。
また、社債を数回に分割して開示規制を潜脱することを防止する観点から、6か月以内に同一種類の社債をすでに発行している場合には、当該既発行の社債の勧誘の相手方の人数と通算して49名以下でなければなりません(金融商品取引法施行令1条の6)。
そして、発行時の募集人数が50名未満であるだけでなく、発行後も50名未満である必要があります(金融商品取引法2条3項参照)。
会社法において社債管理者の設置義務を回避するために、社債総額を社債1口の最低金額で除して50を下回るように発行金額を決定していきます(会社法702条但書、会社法施行規則169条)。例えば、2億円の社債を発行する場合に、Aが1億円、Bが8000万円、Cが1800万円、Dが200万円の引受けをした場合、引受人数は4人しかいませんが、最低金額であるDの引受価額200万円で2億円を除すと「100」となりますので、会社法702条但書が適用されず、社債管理者を設置する必要が生じます。このため、一般的に少人数私募債は社債管理者を設置しないように設計しますので、この例では最低金額を400万円超に設定します。こうすることで、自動的に募集人数も50名未満となりますので、金商法の少人数私募債に該当することになります。
なお、金融商品取引法の“私募債”の考えと、会社法の社債管理者の設置義務の有無の考えが異なりますので、注意が必要です。
この点については、多数の者に譲渡される恐れを少なくすることが重要です。いったん社債が49名以下の者に引き受けられたとしても、その後、多数の者に譲渡することが可能となると、49名以下の人数制限が潜脱されるおそれがあります。
そこで、①一括譲渡以外の社債の譲渡が禁止されること、または②社債の口数が50未満であり、かつ、分割できない旨の制限が付されていることのいずれかの要件(当該①または②の要件を「転売制限」といいます)を満たし、かつ、これらが社債券に記載されまたは取得者に対して交付される書面に記載されていることが必要となります(金融商品取引法施行令1条の7第2号ハ、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令13条3項1号)。
少人数私募債の発行時においては、社債の発行額が1億円未満である場合等一定の場合を除き、社債の取得勧誘の相手方に対して一定の事項を告知する必要があります(金融商品取引法23条の13第4項、5項、企業内容等の開示に関する内閣府令14条の15)。
具体的には、①当該社債の取得勧誘について金融商品取引法4条1項の規定による届出(有価証券届出書の提出)が行われていないこと、および②転売制限の内容について、書面により告知しなければなりません。
会社が社債を発行する場合、社債管理者を定め、社債権者のために、弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならないものとされています(会社法702条)。そして、社債管理者に就任できる者は、銀行、信託会社、信用金庫、保険会社等一定の者に限られます(会社法703条、会社法施行規則170条)。
もっとも、①各社債の金額が1億円以上である場合、または②ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合には、社債管理者の設置は不要です(会社法702条ただし書、会社法施行規則169条)。
具体的には、総額3億円の社債を発行する事例において、1億円の社債を3口発行する場合は①の要件を満たしますが、5000万円の社債を6口発行する場合は①の要件を満たしません。同様に総額3億円の社債を発行する事例において、5000万円の社債を6口発行する場合は②の要件を満たしますが、300万円の社債を100口発行する場合(各社債の金額の最低額が300万円となる場合)は②の要件を満たしません。
この点、少人数私募債の場合は、できるだけ低コストで社債を発行したいとのニーズも強いことから、各社債の金額を1億円以上とするか、発行口数について49口以下とすることがほとんどとなります。
会社が、社債を発行する場合に決定すべき主な事項は以下のとおりです(会社法676条)。
①社債の総額
②各社債の金額
③社債の利率
④社債の償還の方法および期限
⑤利息支払の方法および期限
⑥社債券を発行するときは、その旨
⑦各社債の払込金額
⑧払込金額の払込みの期日
出資法第2条第1項で「業として預り金をするにつき他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業として預り金をしてはならない。」とあり、同第2項で「前項の「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受入れであつて、次に掲げるものをいう。一 預金、貯金又は定期積金の受入れ二 社債、借入金その他いかなる名義をもつてするかを問わず、前号に掲げるものと同様の経済的性質を有するもの」と定められており、出資法上、不特定多数からの預り金と評価される態様※での社債の発行はできません。
・不特定かつ多数の者が相手であること
・金銭の受け入れであること
・元本の返還が約されていること
・主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること
よって、不特定多数の者に勧誘をするスキームで、利殖性が高く事業性(実業性)が低い案件は、社債を利用した資金調達を行うことはできません。なお、ここでの「不特定多数」の定義は複数の判例がありますが、総じて広く解される傾向があります。そのため、親族や既存取引先等の親密な縁故者以外に募集をかける場合には出資法の抵触性に関して慎重に検討する必要があります。
オリエンタル法律事務所の執筆コラム「社債と利息制限法」をご覧ください。
自治体によっては、社債(少人数私募債)の発行に対して補助金の制度を設けているところがあります。一般的には、社債を発行した場合に支払う利息を補助してもらえる制度が多いようです。自治体によって担当している部署は異なりますが、産業支援などを行っている部署が担当していることが多いようです。
社債の補助金の内容に関しても自治体によって異なりますが、補助金制度のある自治体であっても、補助金をもらえる条件や補助金の支給内容は異なるため、細かい内容まで確認する必要があります。
社債発行を行う際は、実質的にファンド的な経済実態にある「名ばかり社債」にならないように、手続面および実態面でも社債としての実質を担保し、取得者に対して事前に適切にリスクと事業内容の説明を行うなど、金融商品取引法や会社法を遵守した正確な手続きが求められます。
投資家に対する必要的私募告知や社債内容の法的な制限がございますので、違反することがないように細部まで注意しましょう。また、一般論として、社債は元本を保証してしまう性質を有するがゆえに、出資法への抵触性も、極めて慎重に検討する必要があります。判例や金融庁の事務ガイドライン等に十分配慮した設計が必要です。
オリエンタル事務所では、どのような手続きと勧誘をすれば少人数私募社債の自己募集として適法に資金調達ができるかについてのご相談もお受けしております。まずはお気軽にご相談ください。
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