「不動産特定共同事業法」(通称「不特法」)という法律を耳にしたことはありますか?
株式や投資信託などの金融商品と並んで強い人気を持つ投資対象のひとつが「不動産」です。
不動産投資とは、不動産を所有することで賃貸収入などの収益を得る、所有する不動産が値上がりしたタイミングで売却し利益を得る、ということを目的とした投資手法です。プロの投資家から、経営者、会社員、そして「これから投資を始めてみたい」という投資初心者にも人気の高い不動産投資ですが、現物の収益用不動産の購入には、数千万円から数億円といった多額の資金が必要です。
そこで1980年代に、高額な不動産を分割して小口化し、複数の投資家の共同事業として収益を分配する不動産小口化商品を使った事業が生まれましたが、バブル崩壊を経て、投資家保護と事業の健全な発展を目的に制定されたのが「不動産特定共同事業法(不特法)」です。そして、この不特法に基づき運営される事業を「不動産特定共同事業」といいます。
今回はこの不特法の仕組みやこれまで実施された法改正などについて解説していきたいと思います。
不動産特定共同事業法(不特法)とは、出資額を小口化した不動産について、投資家から出資を募り、売買・賃貸などの運用を行い、その収益を投資家に分配する事業について定めた法律です。不動産クラウドファンディングなどの事業主の適切な業務運営を確保するとともに、投資家の利益保護が目的として施行されました。
ちなみに、この不動産特定共同事業には、大きく分けて「任意組合型」と「匿名組合型」、それから「賃貸委任契約型」の3つの契約類型があります。
まず、「任意組合型」とは、投資家が出資した金額に応じた不動産の共有持分を購入して、所有する共有持分を組合に現物出資する形となっています。事業者と任意組合契約を締結し、事業者は組合の代表として不動産の管理・運用を行います。現物出資をする形式となるため、不動産の所有権は投資家にあります。登記簿にも、投資家の名前が記載されるのが特徴です。
収益の分配金は不動産所得となるので、相続税や贈与税の節税対策として有効です。節税対策や、複数の物件に分散投資できるのもメリットといえます。
「匿名組合型」とは、投資家が事業者と匿名組合契約を結び、組合に金銭を出資します。その出資をもとに事業者は保有する不動産を賃貸などで運用して、収益を事業者と投資家の出資割合に応じて分配するという形式です。任意組合型と異なり、投資家に所有権がなく、収益の分配金は雑所得となるので課税の対象となります。
不動産クラウドファンディングでは、この匿名組合型が一般的です。少額からの投資が可能な商品も多く、ほとんどの事業者が「優先劣後方式」を採用しているため、万が一収益減少や損失が出た場合でも、事業者が出資した割合まで先に負担することになりますので、投資家の元本の安全性がより高い投資方法といえるでしょう。
最後に、賃貸委任契約型とは、対象不動産を共有する事業者と各投資家との間で、投資家がその共有に属する対象不動産を事業者に賃貸又は賃貸の委任をする契約を締結した上で、事業者が対象不動産を運用することで各投資家に収益の分配を行うというものになります。
事業者が上記で述べた不動産特定共同事業を行うには、原則、国土交通大臣か都道府県知事の許可を得なければなりません。この不動産特定共同事業法は、1995年4月の施行から2013年、2017年、2019年の3度に渡って改正が行われています。
事業主には、事業内容や許可に必要な出資額によって、4つの種別に分けられています。
種類 | 認可に必要な出資額 | 事業内容 |
第1号事業者 | 1億円 |
不動産特定共同事業契約を締結しており、契約に基づいて運営し、収益を直接分配する事業者 |
第2号事業者 | 1000万円 |
不動産特定共同事業契約の締結を代理か媒介する事業者 |
第3号事業者 | 5000万円 |
不動産特定共同事業契約に基づいて委託運営し、不動産取引業務を行う事業者 |
第4号事業者 | 1000万円 |
不動産特定共同事業契約の締結を特例事業者に代わって行う事業者 |
また、表には当てはまらない「特例事業者」という事業者も存在し、不動産特定事業者・認可宅地建物取引業者・不動産投資顧問業者のことを指します。
なお、事業者が許可を受けるためには、以下の5つの要件をクリアしておかなければなりません。
不動産特定共同事業法は1995年に制定されてから、不動産特定共同事業の更なる発展のために、3度の改正が行われています。3度目の改正である2019年については、最新のものとして前述で述べているため、ここではその他の改正後にあたる、2013年と2017年の内容について解説します。
1995年に不動産特定共同事業法が施行された当初、第1号事業を行うためには、許可を得る必要があり、許可要件の一つとして宅地建物取引業法上の免許を得る必要がありました。しかし、2013年には新たに「適格特例投資家限定事業」が創設され、不動産を証券化するなど資金を流動化することを目的としたSPC(特定目的会社)主体となる不動産ファンドの組成、運用が可能になりました。
また、2013年法改正には、これに加えて「倒産隔離型スキーム(特例事業)」が導入されました。これは、耐震性の劣る建築物の耐震化や老朽不動産の再生への民間資金の導入促進を通じて、地域経済の活性化と資産デフレからの脱却を図るための措置として設置されたものです。これにより、投資適格不動産の供給とそれに伴う不動産取引の活発化が期待され、併せて一定の要件を満たす特別目的会社(SPC)も、不動産特定共同事業を営むことができるようになりました。
2013年の改正では、この「適格特例投資家限定事業の創設」が大きなポイントとなりましたが、税制面や制度面での課題は無くならず、後に2017年、2019年にも改正が行われます。
ここまでご確認いただいたとおり、不動産特定共同事業を営むためには、不動産特定共同事業法に基づく「許可」を原則として取得する必要があり、比較的ハードルが高いのが課題としてありました。
これに対して2017年に法改正がなされ、「小規模不動産特定共同事業」という事業体が新設されました。こちらでは、資本金や出資金などの参入要件が緩和され、また国交省による許可制度ではなく「登録更新制」(5年)に変更されたので、より中小規模の事業者が参入しやすい環境になりました。
加えて、書面交付の方法に関する制度が整備されました。「クラウドファンディング」とは、事業者と投資家をインターネット経由で結びつけ、出資金をインターネット上で集う仕組みです。2017年に改正が行われる以前は、取引にあたって書面を交付する必要がありました。そのためインターネット上で手続きを完了することができず不動産特定共同事業をクラウドファンディングで行うことは困難でしたが、改正により新たにオンラインで取引を行うことが認められました。
実際に、書面だけではなく、オンラインでも取引が可能になったのは、「契約の成立前および成立時に交付される書面」と「財産管理状況報告書」の2種類です。双方の承諾と一定の要件を満たしていれば、書面交付ではなくオンラインでも取引を行うことができます。
一方で、詐欺などに悪用されるケースも多く、投資家から不安視する声も多く上がっていましたが、2017年の法改正により、インターネットを介して不動産特定共同事業契約を締結する場合「電子取引業務」として扱われ、業務管理体制の整備義務を設けるなど、投資家保護の規定が定められています。
このように、投資家の保護を徹底しつつ、クラウドファンディングという新しい形態での取引を認可することで、小規模の不動産事業者に対しても不動産特定共同事業が行いやすくなりました。
これまで確認してきたとおり、不動産特定共同事業法(不特法)に関する実務的処理は実際には見た目よりかなり難しいのが現実です。
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