旧民法の消費貸借の規律には「利息」についての定めはありませんでした。しかしながら、金銭消費貸借において「利息」(利息の有無や利率)が重要な問題となることは言うまでもありません。高利の金銭消費貸借により借主が暴利を収奪されたり、強硬な取立を受けたり、破産などに追い込まれるなど、高利の貸金債権に関するトラブルは後を絶ちません。金銭消費貸借における高利息を制限する借主保護のための強行法規として利息制限法がありますが制限利息は年率15%~20%となお高利です。
このように金銭消費貸借においては「利息」が重要になりますし、知人間等の個人的な貸借は別として、金融機関等の融資などでは有利息の消費貸借がほとんどですから、利息について、その基本となるルールを民法に設けることになりました。
そこで、今回は、消費貸借契約における、利息について、また、期限前返済に関するルールと契約の際の注意点について解説します。
まず、利息が発生しうる消費貸借契約とは、種類、品質及び数量の同じ物を返す代わりに金銭、その他の物を受け取ることができるという契約です(改正民法587条)。
金銭消費貸借契約とは、このうち受け取る物が「金銭」であるものをいいます。 すなわち、金銭を受け取る代わりに、それと同額の金銭(利息付の場合は利息も含む)を返すという契約になります。
約定利息 |
当事者間の契約等により発生する利息 |
法定利息 |
法律の規定により発生する利息 |
利息とは、金銭等の元本を使用する対価として、元本額と使用期間に応じて一定の利率により支払われるものです。
利息には、法律の規定によって発生する法定利息と、約束(契約)によって発生する約定利息とがあります。
今回のテーマである、消費貸借契約に関係するのは、主に約定利息となります。
旧民法では、消費貸借契約に関して、利息に関する明文の規定はありませんでしたが、改正により、「貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない。」(改正民法589条1項)との規定が新設されました。
また同条2項では、利息について、元本の受領日以後にしか請求できないことも明文化されましたので、元本受領前に利息を発生させることはできません。
実際上、消費貸借契約のほとんどが利息付であり、また利息についても契約上規定されていることが通常ですので、特にこれまでと大きく変わることはありません。
金銭消費貸借契約で、もともと支払期限とされていた弁済期に支払うことができず、滞納してしまった場合の利息はどうなるのでしょうか。
この、返済期限である弁済期に遅れた場合に発生する利息を、遅延利息や遅延損害金と言います。
この遅延利息は、法定利息であり、特にこの遅延利息の利率について合意していない場合には、法定利率が適用されることになります。
そうすると、改正民法では、法定利率について変動利率(同法404条)が採用されており、また改正前商法514条の商事法定利率も廃止されていますから、遅れた場合の利率である遅延利率についても、合意を行っておく重要性が高いと言えます。
先ほど、返済期限である弁済期に遅れてしまった場合の遅延利息の話をしました。
今度は逆に、弁済期よりも前に弁済を行った場合、すなわち期限前弁済についてお話いたします。
弁済について期限が設けられるということは、逆に言えば、その期限までは弁済をしなくてもよいということを意味します。
そのため、期限は、債務者つまり弁済をする者の利益のために定められたものと推定されます(民法136条1項)。
改正前民法では、期限前弁済に関する明文の規定はありませんでしたが、このように、期限が債務者の利益のためにあること、そして、この利益については放棄することができる(同条2項)と定められていることから、期限前においても弁済はできると考えられていました。
改正民法では、この点を明文化し、「借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。」(同法591条2項)と規定しています。
ところで、仮に期限前弁済をした金銭消費貸借契約に、先ほどの約定利息がある場合、期限前に弁済されてしまうと、受け取れる利息の総額が減ってしまうことになります。
そこで、改正民法591条3項は、当事者が返還の時期を定めた場合、貸主は、このような期限前弁済をしたことによって損害を受けたときは、借主に対してその損害賠償を請求できる旨規定しました。
もっとも、この「損害」の範囲については、あくまでも個々の事案における解釈・認定に委ねられていますから、本来の返還時期までに生じるはずだった利息相当額が、すべて損害として当然に認められるわけではありません。
なぜなら、期限前に繰上返済された資金を、他に転用して利用できる可能性があるからです。
さらに、この損害の発生や内容、因果関係の主張立証責任は、貸主側が負うこととされています。
そこで、このような損害の解釈に関して、後に紛争が生じることを予防するため、そもそも期限前弁済を原則不可とする条項を置くか、さもなければ、損害賠償額の予定の合意条項など、損害に関する契約条項を設けておくのが良いでしょう。
例えば、貸主側であれば、以下のような規定を設けることが考えられます。
サンプル 例文1 |
借主は、本契約に明示的に定める場合を除き、(貸主の同意がなければ)貸主に対して期限前弁済を行うことはできない。 |
サンプル 例文2 |
借主は、約定期限前に返済をすることができる。ただし、借主は、貸主に対し、期限前返済の手数料及び違約金として金●●●円を支払うものとする。 |
他方で、借主側としては、貸主からの損害賠償請求を制限するため、以下のような規定を設けておくことが考えられます。
サンプル 例文1 |
借主は、約定期限前に返済することができる。この場合、借主は、貸主に対し、期限前返済により貸主が被る何らの損害も賠償する責任を負わないものとする。 |
サンプル 例文2 |
借主は、約定期限前に返済することができる。期限前返済により貸主に損害が生じた場合、借主が、貸主に対して負う損害賠償責任は、●●●に限定される。 |
なお、この点について、参議院の附帯決議では、期限前弁済に関する損害賠償請求について、銀行や貸金業者などの金銭消費貸借を業として行う者は、期限前に繰上返済を受けた資金を他へ転用できる可能性が高いことから、民法591条3項の適用場面は限定的であることを、政府が借主・貸主に周知徹底することとされています。
そのため、仮に貸金業者が、高額な損害賠償額の予定の規定を設けたとしても、その規定自体の有効性に疑義が生じる可能性があります。
今回は、利息と期限前弁済について解説をしました。
改正前と比較して、改正規定を踏まえて、①契約の成立に関する条項、②利息に関する条項、③貸付実行前の解除に関する条項、④金銭交付前の契約終了原因に関する条項、⑤期限前弁済に関する条項など改めて内容を見直しておく必要がある部分といえます。
後の紛争予防のためにも、契約書の内容や規定の仕方に関して、不安、不明な点があれば、当事務所までご相談いただきますようお願い致します。
ニュース一覧名称 | オリエンタル法律事務所 | ||||
---|---|---|---|---|---|
弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
連絡先 |
|
||||
所在地 | 〒106-0032 東京都港区六本木4-10-7 エルビル5階 Googlemap |
||||
アクセス | 六本木駅 6番出口徒歩1分 |