不動産取引実務において、取引不動産に自殺事故等があった場合、賃借人に説明すべき瑕疵等があった場合、賃借人に説明すべき瑕疵に該当するか、また説明すべき瑕疵であるとすれば、事故等の発生によりいつまで説明しなければならないのかの判断は悩ましい問題です。
本来、住居に関する瑕疵とは、一般的に物理的なものが中心です。
例えば、水漏れが発生したり、シロアリが建物の本体を腐食させていたりするなど、居住性に関する問題のことを指します。
こういった建物に直接影響を与えているような問題が残っている場合は、賃貸や売却前に借り主、買主に告知する義務があります。
しかし、賃貸物件を経営していると、室内で賃借人が自殺、室内で殺人等の事件が起こることもいえます。
このように、物件内で問題が起こった場合、物件が「事故物件」扱いとなってしまいます。
自殺や殺人などの「心理的瑕疵」要因がある場合にも、貸し主には告知義務が発生します。
心理的瑕疵物件とは、主に事件や事故が発生し、その内容を知った人が居住を避けたくなるような可能性を持つ物件のことを指します。
心理的瑕疵物件は、物理ではなく心理的な要因で瑕疵となり、種類は2つあります。
1つは、物件そのものではなく、物件の周りの環境が悪い場合です。例えば騒音や悪臭がひどかったり、物件の周辺に暴力団の事務所や墓地があったり、風俗関係の店舗があるなど、治安に関する避けたくなるような設備がある場合、その物件は心理的瑕疵物件と呼ばれ、売主に告知義務が課せられます。
もう1つは、物件内で人が死んだ場合です。殺人事件や入居者の自殺、もしくは事件や事故でなくても入居者が自然死した事例があるような物件も心理的瑕疵物件と呼びます。
そういった物件に関しては、たとえ事件や事故があったあと室内を大幅にリフォームやクリーニングをしても、心理的な瑕疵を与える事項があった事実を告知する義務があるのです。
このような心理的瑕疵が存在する場合、借主は、そういった事情を知っていたら契約をしないという判断をすることが多いことは明らかです。
そこで、判断材料を適切に与えるため、物件の所有者は契約相手に対し、事故物件であることとその内容を説明しておくべきです。
このような、物件所有者による契約相手への説明義務のことを、「告知義務」と言います。実は心理的瑕疵物件の告知義務の詳細は、法律で定められているわけではありませんが、 告知義務を怠り、説明をしなかった場合には、契約後、契約相手から損害賠償請求をされたり契約を解除されたりするおそれがあります(東京地裁平成20年4月28日など)。
告知義務の有無の検討にあたっては、事件・事故の重大性、経過年数、使用目的、近隣住民に事件等の記憶が残っているか等が総合的に考慮されています。
具体的には、物件内で自殺者が出た場合、殺人などの事件が起こった場合などには、告知義務が発生すると考えられています。他に、不審死や変死、火災による焼死や病死後長期間が経ってから発見された場合にも、心理的瑕疵があると考えられるので、告知義務が発生します。
これらの場合に対し、たとえば、自然死してすぐに発見された場合や、入居者が通勤中に事故に遭って死亡した場合、物件内で体調が悪くなって病院に運ばれて、搬送先で死亡した場合などには告知義務は発生しません。
また、隣の部屋で事件が起こった場合には、告知義務が発生しますが、それ以外の部屋で事件が起こった場合には告知義務が発生しないと考えられています。
心理的瑕疵物件の告知義務の期間は、法律で定められているわけではありませんが、心理的瑕疵に対する告知義務に期間があると考えられています。
いったん自殺等の事故が起こっても、その後期間が経過すると、次の入居者の心理に対する影響も小さくなると考えられるからです。
裁判例を確認してみると、賃貸物件の場合、部屋内で自殺が起こった場合には、概ね2~3年程度までは告知義務があると考えられており、実務上でもそういった運用が行われています。他方、売却物件の場合、物件内で自殺が起こったときには、5~6年程度までは告知義務があると考えられています。賃貸よりも売却の方が、契約相手に対する影響が大きいと考えられるためです。
もっとも、心理的瑕疵に対する告知義務は、単に事故等からの経過年数だけではなく、事故等が発生した建物の存否、事故等の重大性、使用目的、近隣住民に事件の記憶が残っているかどうか、取引不動産の市場性等が総合的に考慮されており、事故等からの経過年数と告知義務との関係について一律的に「○年経てば告知は不要」と単純には言えません。
例えば、農山村地帯における殺人事件の現場となった物件、事件について広く知られている物件の場合は事件から約50年を経たとしても説明するべきと判断され、告知を怠った売主が告知義務違反となった判例も存在しています。
賃貸物件の場合、事件や事故が起こってから何度も新たな賃借人が入居することになります。売却物件の場合にも、物件が買主から次の人に転売されることもあるでしょう。
このように、入居者が変わると、告知義務がなくなると考えられています。
賃貸物件の場合、自殺が起こった後、次に貸すときには事件内容を告知しなければならないけれども、いったん誰かが入居したら、その次の人にまでは自殺のことを告げる必要がなくなる、ということです。
もっとも、心理的瑕疵に対する告知義務は、時間が経過したり、いったん人が入居したりするとなくなると考えられていますが、必ずしも一律の基準によって判断されるわけではないので、注意が必要です。
心理的瑕疵の事故物件を賃貸・売却するときには、相手に対する誠実な対応が必要です。適切な対応方法がわからない場合には、オリエンタル法律事務所まで相談いただければと思います。
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