訴訟手続きを進めている最中に,借主が他人に建物を引き渡してしまった場合,せっかく勝訴判決を得ても,その他人に対して,判決の効力を主張することができなくなり,建物の明け渡しを請求することができなくなってしまいます。そこで,このようなことが起こらないよう,「占有移転禁止の仮処分」という手続きが重要になってきます。
占有移転禁止の仮処分とは,借主に対し建物の占有を他人に移転させることを禁止し,仮に移転させても,その占有者に対して建物の明渡しを請求できるようにする手続きをいいます。
判決を取ったとしても、強制執行は、原則として債務名義に当事者として記載された者にしかすることができません。そうすると、訴訟中に建物の占有が第三者に移転した場合、債務名義に当事者として記載されない第三者に対して強制執行をすることはできないため、勝訴判決を得ても建物の明け渡しを受けることができません。当該第三者に対して改めて訴訟を提起し、その者が当事者として記載された債務名義を取得しなおす必要があります。
このように新たに訴訟を提起するには余計な時間や費用をかけることになりますし、その第三者は素性の知れない者ですから、訴訟を提起しようと思ってもそれが誰か特定できない可能性もあります。また、悪質な場合は新たな訴訟を提起しても、さらに占有を移転され、いつまでたっても強制執行ができないという事態になりかねません。
そのような事態を防止するためには,借主に対する訴訟を起こす前に,借主に対する占有移転禁止の仮処分を得ておく必要があります。こうしておけば,あとで賃貸物件に別人が居座っていたとしても,借主に対する明渡しの判決を得て強制執行をすることができます。
占有移転禁止の仮処分をする場合、一般的な手続きの流れは次のようになります。
建物明渡請求訴訟の管轄裁判所もしくは建物の所在地を管轄する地方裁判所に対して占有移転禁止仮処分申立書を提出します。
必要書類
裁判官は、申立書に添付した書類の原本の確認、現況の確認をしてきます。裁判官面接には、代理人である弁護士や当事者本人が出席できます。
ざっくり言えば、裁判官に、保全したい権利の根拠と保全の必要性をわかってもらう手続です。
具体的な担保金の額は、目的物の価格又は他に賃貸できないことによって失う利益を基準として、裁判官の自由裁量により決定されます。債務者に占有を許す建物の占有移転禁止の仮処分の場合、住宅の場合は賃料の1~3か月分、店舗の場合は賃料の2~5か月分が担保額となるのが一般的です。また、被保全権利の疎明の程度も影響します。明渡訴訟で勝訴する可能性が高いことを裁判官に対し説得的に説明することができれば、担保金額を低くすることができます。
担保提供命令をもらったら、時間があれば、すぐに最寄りの供託所に向かいます。供託所は法務局の中にありますが、全ての法務局にあるわけでなく、事前に確認いたします。
注意しなければならないのは、仮処分決定が出ればそれで終わりなのではなく、さらに仮処分の執行をしなければ占有移転禁止仮処分の効果を得ることはできません。
占有移転禁止仮処分の正本を受領したら、執行官室に向かい、保全執行の申立書と共に提出します。保全執行は、「債権者」に保全命令の決定正本が送達されてから2週間以内に行う必要があります(民保法43条2項)。
予納金を納め、執行官とのスケジュール調整も行います。仮処分を執行するには、建物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に仮処分の執行を申立て、仮処分を執行してもらうことになります。
以上のような手続を経て占有移転禁止の仮処分を行うことになりますが、それが建物の占有が第三者に移転してしまった後であれば意味がありません。そのため、占有移転禁止の仮処分はできるだけ早く行うことが重要です。
名称 | オリエンタル法律事務所 | ||||
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弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
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