集合住宅で起こりやすい隣人トラブルとして、第一に騒音があげられます。「テレビや音楽を大音量で流している」「楽器を演奏している」「深夜に大声で話したり笑ったり騒いでいる」など、あきらかに騒音と捉えられる行動もありますが、何気ない生活音でも、程度や時間帯、受け取り側の状況によっては騒音と捉えられるケースも多くあります。その他、ペットやゴミなどの臭い、隣家の植物や私物の侵入なども見受けられます。
賃貸人は、貸した居住用の物件についても、平穏な環境で居住させる義務がありますので、例えば、騒音、悪臭などが生じているのであれば、その要因を排除していく必要があります。要因を排除できない場合には、賃借人から債務不履行に基づく損害賠償請求を受けるおそれがあります(大阪地判平成元年4月13日)。
このような不良賃借人が入居している不動産には入居者が寄り付かず、賃料収入が減っていき、資産価値も減少します。住民通しで刑事事件に発展するような事件が起きた場合には、事件内容によっては事故物件となってしまって、賃借人を募集するにしても、将来的に物件を売却するにしても、事故物件であることを告知する義務まで生じかねません。
そこで、複数の居住者が共同で生活するアパート、マンション等の集合住宅においては、迷惑行為を行うような不良な賃借人に対し、適切に対応をとる必要があるのです。
そもそも、賃貸借契約において、賃借人は、「契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」として用法遵守義務を負うものとされており(民法第616条、第594条第1項)、近隣の居住者の迷惑となるような行為や平穏な生活を脅かす行為は用法遵守義務違反となり得ます。
それゆえ、賃貸人としては、特段の対応をとらなくても、用法遵守義務違反の問題が発生した場合は、その都度対応をとれば足りるのではないかとも考えられます。
しかし、一般的に賃借人が用法遵守義務を負うとしても、用法遵守義務の表現のみでは、その具体的な内容が判然としないばかりか、その内容は事案によって異なり得るところです。そのため、用法遵守義務の内容については、できる限り予め具体化しておく必要があります。
また、賃貸借契約において種々の用法を想定して禁止行為を定めたとしても、賃貸借契約は、継続的な契約であるが故に、契約を解除するためには、賃貸借契約の基調である信頼関係を破壊するに足りる特段の事情を要するものとされています(最判昭和27年4月27日、最判昭和39年7月28日等)。それゆえ、禁止行為の違反があれば直ちに賃貸借契約の解除が法的に認められるものでもありません。
そこで、迷惑行為を行うような不良な賃借人に適切に対応するため、少なくとも以下の3つの視点に留意しておく必要があります。
① 禁止する迷惑行為の特定
② 迷惑行為を許さない賃貸人としての断固たる対応
③ 迷惑行為に関する記録
まず、「①禁止する迷惑行為の特定」についてですが、賃貸借契約を締結する際に、迷惑行為を禁止する旨の特約条項を設け、いかなる行為が禁止行為となり、用法遵守義務に違反することとなるかを明確にしておく必要があります。
禁止行為を規定する際には、危険物の取扱い、排水管等の設備への影響、騒音、異臭、ペットの飼育、反社会的勢力との関係、近隣居住者との関係、共用部分の利用等が視点として考えられるところです。
このような禁止条項の一例を挙げると次のような内容となります。
次に、「②迷惑行為を許さない賃貸人としての断固たる対応」については、迷惑行為を行う賃借人に対し、注意や改善要求等の適切な対応をとることができているか、迷惑行為が行われていると認識しているにもかかわらず、安易に契約更新をしていないか等の事由に留意する必要があります
前述したとおり、賃貸借契約を解除するためには、単に用法遵守義務違反の事実があるのみでは足りず、信頼関係を破壊するような特段の事情も必要であるところ、賃借人が賃貸人の注意、改善要求等に応じない場合は、裁判において、信頼関係が破壊されていると認定されやすくなります。他方で、賃貸人が、注意や改善要求をしていない場合や、迷惑行為が行われていることを認識していながら、賃貸借契約を更新した場合などは、信頼関係が破壊されているとはいえない事由として斟酌される可能性があります。
このように、賃貸人としては、やるべきことはやっているけども、改善が図られないことを指摘できるようにしておく必要があります。
最後に、「③迷惑行為に関する記録」については、迷惑行為が行われた事実のほか、当該迷惑行為によって、どのような影響が生じているかを証拠化しておく必要があります。
賃貸借契約を解除する際は、解除の有効性が争われて裁判となることも少なくはありません。迷惑行為が行われていた事実自体が争われることもあります。そのため、裁判では、これまでどのような迷惑行為が行われ、それによってどのような影響が生じていたかを詳細に主張していくことが必要となります。
例えば、迷惑行為が、一時的なものではなく継続して行われていたこと、注意をしても改善されないこと、他の居住者から頻繁に苦情が出ていること、迷惑行為によって退去した居住者がいること、警察を呼ぶような騒動に発展したことがあること等の事由です。これらの事由については、写真を撮る、録音する、書面化する等の方法により、できる限り記録化しておきましょう。
以上、迷惑行為の対応について簡単に説明をしましたが、一言で迷惑行為といっても、その内容は多種多様であることが想定されます。
賃貸人としても、それぞれの事案において、個別具体的な事情も勘案しながら、個別に対応する必要がありますので、賃貸借を行うにあたっては、契約の締結後も適切に管理をすることができるように十分に留意してください。
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