賃貸していた建物が、天災地変等の当事者の責任ではない理由によって滅失した場合に、賃貸借契約にどのような影響を与えるのかについては、建物の全部滅失の場合と一部滅失の場合とで異なります。
一部滅失の場合における賃料減額、全部滅失の場合における賃料減額、滅失の場合に備えた免責条項の可否について説明していきたいと思います。
民法上、賃借人の責任によらずに,賃借物の一部が滅失したり,使用収益出来なくなった場合,賃料は、賃借人からの請求を待たずに当然に減額されます。
また,賃借物の一部が滅失等した場合に,残存部分だけでは賃貸借の目的を達成することができない場合には,賃借人の責任にかかわらず、解除できます。
もっとも、民法の規定する「滅失」以外の「その他の事由」にどのような事由が含まれるのか文言上だけでは明らかではありません。
例えば、大震災等によって、賃貸不動産が一定期間使用できなくなってしまった場合、漏水によりテナントの重要な一部が使用できない場合等が該当するか問題となります。
そのため、「その他の事由」に物理的に使用収益が不能な場合に限定するのかあらかじめ明確に定めておく必要があります。
また、減額される具体的な賃料金額を決定する際に基準となる、使用収益をすることができなくなった部分の割合の判断は容易ではありません。
一般的な基準ではありますが、割合については以下の事情が参考になります。
そして、紛争防止の観点からも、一部滅失があった場合は、賃借人に通知義務を課し、賃料について協議し、適正な減額割合や減額期間、減額の方法等を合意の上、決定することが望ましいと考えられます。減額の方法とは、賃料設定は変えずに一定の期間一部免除とするのか、賃料設定そのものの変更とするなど方法があります。
そこで、以下のような条項を記載することが一般的です。
本物件の一部が賃借人の責めに帰すことができない事由により滅失したときは、賃借人は、賃貸人に対して書面によりその旨をすみやかに通知した場合に限り、滅失部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができる。この通知をしなかった場合には、通知以前の賃料減額を主張し得ないものとする。
賃借不動産が全部滅失した場合など賃借人が使用収益することができなくなった場合には、賃貸借契約そのものが終了することになります(民法616条の2)。
民法第616条の2
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
ここで、「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」にどのような事由が含まれるのか明らかではありません。
そのため、後の紛争を避けるためには、どのような場合が上記文言に該当するのかを個別具体的に賃貸借契約に明確にしておくことが重要です。
建物賃貸借契約において、天変地異などの災害時に賃料を確保するための、いわゆる免責条項をどう規定すべきかを検証してみます。
賃貸借契約は一定の期間に渡る契約であることから、その間に、天変地異その他賃借人に帰責性のないような使用不能が生じる可能性があります。
ところが、いついかなる事象による場合でも、一切賃貸人が免責されて、賃料を全額請求できるといった条項を設けた場合には、条項自体が無効とされる可能性があります。
そこで、免責条項を設定する場合でも、①賃貸人が免責される場合について、合理的理由のある場合に限定する、②賃借人が、賃貸人に対して、賃貸人の帰責性に応じて損害賠償請求ができるように段階的に規定する、③賃借人から請求できる賠償額に、上限額を設けることが大切です。
賃貸借は、当事者の一方がある者の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うものです。
つまり、賃料は使用・収益の対価ですから、使用・収益ができなかった期間については賃料が発生しないのが原則です。
したがって、仮に賃貸マンション・賃貸ビルに自然災害などが発生して、賃借人が賃貸物件を使用できない期間が生じると、その分の賃料は何らの請求なく当然に減額されます。
次に、賃貸人の義務の履行である修繕行為によって賃借人に損害が発生した場合であっても、適切に賃貸人の過失割合を考慮し、賃貸人を完全には免責させることは避けるべきです。
ただし、賃貸人の過失が軽微なものにとどまるときには、免責を認めても特約の効力は維持できると考えます。
そこで、軽過失に過ぎないときは完全に免責されるとして、賃貸人の帰責性に応じて規定を分けることが考えられます。
裁判例において、サーバー管理会社が、顧客から保管の依頼を受けていたファイルを消滅させたことで、1億0600万円の損害賠償請求を受け、サーバー管理会社の帰責性が認められ、736万5000円の損害賠償義務が認めた事案がありました。
このように、賃貸人に帰責性がある場合で、かつ賃借人の損害が大きい場合には、高額な損害賠償義務を負担しなければならない恐れがあります。
そこで、賃借人から請求できる賠償額に、上限額を設けることが重要です。
以上を前提に、①~③について、以下のような条項として契約書に盛り込むことが考えられます。
一部滅失、全部滅失の場合においても、民法上の「その他の事由」の定義が曖昧であるため、物理的に使用収益が不能な場合に限定するのかあらかじめ明確に定めておくなど必要があります。
また、免責条項について、個人の賃借人との賃貸借契約については、消費者契約法が適用されることから、賃借人に不利な条項は同法第10条により無効とされ得る範囲が広くなります。したがって、免責条項が必ず有効であるというものではなく、条項の有効性は、あくまでも個別の事案に応じた判断となる点は念頭に置いていただきたいと思います。
オリエンタル法律事務所では、不動産案件に集中的に取り組み、契約関係の明確化に努めておりますので、一度ご相談いただければと思います。
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