最近,再開発の影響を受けて建物明渡に関する案件が増えているため,建物明渡の場合における正当事由について検討したいと思います。
賃貸借の終了は,賃借人にとって,生活や営業の基盤を失うことになり,不利益なものであります。そこで,借地借家法は,賃貸人からの更新拒絶等については,通知期間内に更新拒絶等の通知がなされただけでは賃貸借は終了せず,通知に正当事由がある場合に限って,賃貸借が終了するものとしています。
正当事由とは「賃貸借を終了させ明渡を認めることが,社会通念に照らして妥当と認められる理由」(最判昭和29.1.22)とされています。
正当な事由は,以下の事情を考慮して判断されます。
①②が基本的要因,③から⑥までが補充的要因です。すなわち,まずは主たる要因として「賃貸人が建物の使用を必要とする事情」と「賃借人が建物の使用を必要とする事情」の比較衡量がなされ,それらのみでは判断できない場合に,従たる要因も加えて正当事由があるかを判断することになります。
立退料は,決定方法については,次回コラムの「立退料」をご覧ください。
賃貸人側の事情としては,①現存建物利用の必要性(賃貸人自らの現存建物利用),②建物の老朽化による建替え・再開発の必要性,③その他(売却,修繕,賃貸人の収去義務履行などの必要性)があります。他方,賃借人側の事情としては,賃借人の居住・営業の必要性等が挙げられます。
賃貸借にすることにした経緯や,権利金などの支払いの有無,その金額,賃料,契約上の義務の履行,当事者間の信頼関係などを考慮します。これらの事情を考慮して,賃貸人にこのまま物件を使用できない状態を強いるのが酷だと思われる場合には,正当事由が認められる方向に働きます。
たとえば,以下のような場合などは賃貸人に有利に働きます。
賃借人が契約目的に従って建物を使用収益しているか,それとも建物をあまり使用していないなどの事情があるかなどが,建物の利用状況として,正当事由の有無の判断において考慮されます。
建物の現況とは,建替えの必要性が生じているかどうかということを意味します。建物の老朽化により大規模な修繕あるいは建て替えが必要になっていることや,建物敷地を利用する権利の喪失によって建物の利用が困難になるなどです。建物の老朽化がひどいような場合には,正当事由が認められる方向に働きます。
立退料の提供だけで正当事由を満たしていると判断されるわけではなく,他の事情が備わり,立退料の提供もあるときに,正当事由の1つとして判断されます。
裁判例においても,正当事由を認めるべき事由がなく,またはわずかしか存在しない場合には,立退料による調整は働かず,その支払いだけでは正当事由が具備される余地はないとされています。
交渉の段階では,賃貸人が不相当に高額な立退料の支払いを要求されたり,賃借人が本来支払われるべき立退料を得られずに退去を迫られたりする事例が見受けられます。
このように正当事由と立退料が問題となる場面では,専門家に相談して十分な交渉を行う必要があるといえるでしょう。
建物オーナーが賃借人に明渡してほしいと考える場合には、基本的に立退料の支払いが必要となります。立退料(読み方:たちのきりょう)の相場、算定方法、消費税について説明していきます。
名称 | オリエンタル法律事務所 | ||||
---|---|---|---|---|---|
弁護士 | 佐野太一朗 | ||||
連絡先 |
|
||||
所在地 | 〒106-0032 東京都港区六本木4-10-7 エルビル5階 Googlemap |
||||
アクセス | 六本木駅 6番出口徒歩1分 |